- kuroimame3
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①中学生のとき、近所にMという友人がいた。家も近くて同じテニス部だったぼくはたまに一緒に通学したり家でゲームをしたりした。そんなMから成人式以来……約4年ぶりに連絡があったのは今年の2月のことだった。
2016-10-22 22:02:45②「あ、まめ!今どこにおるん?」「実は徳島なのよ」「マジかよ」「また関西に戻ったら連絡するわ」 旧友とのたわいないやり取りに心がほっこりしたものだが、今考えるとあれは勧誘のための連絡だったのである。かなしい。
2016-10-22 22:05:14③そして先月、Mから再び連絡がきた。 「今も徳島におるん?」「いや、枚方」「時間あるとき会おうよ」「ええで」 同窓会の類に縁のないぼくだが、たまにはこういうのもいいなあと思ってると、Mから衝撃の一言が待っていた。
2016-10-22 22:08:35④「ちょっと仕事の話を聞いてほしいんよ。それで俺だとうまく喋れないから、お世話になってる先輩も同席していい?」 直感的に、これはマルチの勧誘だなと思った。そしてぼくの好奇心が「面白そう」と告げた。こういう話は気づかないふりして乗るに限る。
2016-10-22 22:11:03⑤10/22の18時に梅田で待ち合わせをすることになった。 「久々に会うから飲みたいけど、その前に仕事の話を聞いてほしいんよ」(喫茶店かな?)「行きつけの喫茶店があってさ」(喫茶店だ) 先輩とやらは後から来るという。ぼくはポケットから財布と携帯を取り出しテーブルの上に置いた。
2016-10-22 22:14:08⑥ぼくの知り合いはここで「ん?」と思うだろう。ぼくは飯を食うときにわざわざ財布や携帯を取り出したりはしない。メールをチェックするフリをしてその場で録音のアプリをダウンロードし、そっと録音ボタンを押した。面白きことは良きことなり!
2016-10-22 22:16:05⑦10分後、やってきた先輩とやらは20代後半から30代後半だろうか。営業マンみたいな装いだ。中古車屋で鍛えたらしい彼の営業トークは一聴の価値があると思う。 ペンとメモを渡され、タブレットでプレゼンを始める先輩。これがなんと1時間半も続いたのである。
2016-10-22 22:18:39⑧今メモを見ると27歳とあった。ぼくとあんま歳変わんねえな…… 会社の名前はariixというらしい。ググってみたら色々と香ばしいが、もちろんその場では携帯を弄ることもなく、「うんうん」と相槌を打っていた。 pic.twitter.com/Aw1SPSiQ7N
2016-10-22 22:24:59⑨働く上で重要視するものや老後の年金問題といったトークから「金」という答えを引き出し、労働収入より権利収入と説く先輩。 それにいちいち芸人みたいなオーバーリアクションで「なるほど」「そうですね!」と相槌を打つMの姿に、だんだん面白みより哀しみが募っていく。
2016-10-22 22:30:21⑩ビルゲイツや○○がMLMを絶賛しただの、トヨタが受賞した○○賞を創業1年で受賞しただのと聞かされた後、よくあるマルチの図が出てきた。ここで笑いをこらえるのに必死なまめさんの姿を想像してみてほしい。結構大変なんだぞ。 pic.twitter.com/Lm213rUbCQ
2016-10-22 22:36:1611 先輩「あなた賢そうだからネズミ講を連想したでしょ、でもあれとは違うんですよ」 M「もしネズミ講ならわざわざこんなこと言いませんよねw」 ぼく「わかるwww」 一同大爆笑
2016-10-22 22:39:4812 商材は化粧品やサプリ、シャンプーなどの日用品らしい。アムウェイもそうだが、この手の商材はきちんとしているのがミソだ。 「このシャンプーはね、すごいんですよ。知ってます?普通のシャンプーには硫酸が入ってるんですよ……あの理科の実験とかで使う危険な硫酸ですよ!」
2016-10-22 22:43:2313 「あ、わかります。だからぼくはアミノ酸系のシャンプーを使ってるんですよ」 「アミノ酸???いや、酸は危険なんですよ!?でもariixのシャンプーならご安心だ!」 「アッハイ」 「俺の彼女もサプリを飲み始めてから健康でさ〜」 (うるさいM、お前は黙ってろ)
2016-10-22 22:46:2414 その後はひたすら金の話だった。ひとしきりプレゼンを終えた後、トイレへ向かう先輩。明らかにぼくとMとのアフタートークを促している。 すぐ始めた方が得だの、上のポジションを仮押さえしておこうかだの、アンケート書いてほしいだの言ってくるMと、それらを巧みにかわすぼく。
2016-10-22 22:50:1515 痺れを切らした先輩が戻ってきて、「この後、淀屋橋でセミナーがあるんだけど一緒に行かない?」と誘ってきたが、家に帰ってよく考えたい、Mと連絡が付くので大丈夫と丁重にお断りさせて頂いた。 その後、先輩と別れMと2人、チェーンの安居酒屋で飲むことになった。
2016-10-22 22:53:50あの類いでタチが悪いのは、ざっくりでもだいたい話ができる人間が上に立つくせに、後続の人間をざっくり間違えたままで放置することだよ。その上で、ある種の人間がもつ欲望と論理に対してピタリと照準を合わせている。ただ死なない程度であれば当人の生きがいやつながりになったりするんだよなあ。
2016-10-22 22:56:4416 Mは昔からデブで赤点バカだが決して悪いやつではない。だが、仕事の話はやめにしようと言って向かった居酒屋でもしつこく勧誘トークを続けてくるMに対して、掛ける言葉は見当たらなかった。 ふと目の前にある割り箸袋に目がつき、折り始めるぼく。「まめ、何してるん?」
2016-10-22 22:57:4417 「あのなM、紙って何回折ったら月まで届くと思う?」 「さあ?途方もないやろうなあ」 「実はな、40回ちょっとで月まで届くんや」 「マジかよ」 「こうして数回折るのは簡単や。がんばれば10回ぐらい折れるかもしれない。でもそれ以上は無理なんやで」 「???」
2016-10-22 23:01:08