• Artificier_nuit
    満員電車で、前に浴衣の若い女性が立った。なぜか目の周りのメイクが崩れている。泣いた後なのだろうか、疲れ切っているように見えた。大変だな、と思って席を譲るつもりで立ち上がる。一瞬驚いた表情を向け、小さくお辞儀してくれる。その瞬間、横からおっさんが割り込んで席に座った。殺意が湧いた。
  • Artificier_nuit
    「このおっさん指揮棒で刺したろか…。」と思ったが、辛抱して目線で刺すに留める。しかし困るのはこの状況だ。浴衣の女性と眼を合わせて苦笑する。そして、真横で黙っているのもお互い何となく居心地が悪くて、若干慌てつつ「花火ですか。」と話しかけてみた。
  • Artificier_nuit
    冷静に考えてみればアホな質問だ。浴衣で花火でなくて何だと言うのか。これで「ええ、ちょっとルミネへ買い物に。」だったら、びっくりである。
  • Artificier_nuit
    もちろん花火帰りだったわけだが、新宿まで一緒だったので、乗り換えに歩きつつ、その人としばらく話す。ずいぶん大人っぽく見えたが大学一年生だった。聞けば、好きな人と一緒に花火へ行って告白したけど駄目だったらしい。
  • Artificier_nuit
    そして、彼女はこちらを見て、うわなにをするやめろgdtbqmw
  • Artificier_nuit
    取り乱しました。すみません。…。「好きじゃないなら花火なんて誘わなきゃいいのに。そう思いませんか?」と彼女が僕を見上げて、言う。なんとも言えなくて、「うん…まあ。」と曖昧な言葉を返した。
  • Artificier_nuit
    見上げる顔を横目で見ながら、「結構泣いたんだな…。」と思う。多分、ほんとにその男の子のことが好きだったんだろう。新宿駅の雑踏。華やかな浴衣姿と笑顔ばかり目に入ってくるが、悲しい気持ちで浴衣を着て、こうして帰路に着く人もいるのだ。
  • Artificier_nuit
    華やかな浴衣を着て、光の当たらない場所でひとり泣くのはどんな気持ちなのだろう。想像するだけでとても寂しい気持ちになる。こういう時にはなんて言葉をかけてあげたらいいか分からなくて、初対面なのにとめどなく話す彼女に、ただ相槌を打ち続ける。
  • Artificier_nuit
    あっという間に改札が近づいてくる。ここでお別れだ。「気をつけてね。」と声をかけると、彼女は一生懸命な笑顔で「喋ってばっかりでごめんなさい。でも、ありがとうございました。」と丁寧にお辞儀をする。髪止めが外れそうになっていることにふと僕は気付く。
  • Artificier_nuit
    「じゃあさようなら。」そう告げて別れようとした瞬間、彼女が顔を上げて明るい笑顔でこう言った。 「あの…あたし、今日やっぱり五反田の友達んち泊まります!愚痴りたりないから!」そうして彼女は再び山手線のホームへと向かってゆく。雑踏に姿が溶けてゆく。女は、強い。 (完)
  • Artificier_nuit
    以上です。携帯から打っているので、思いのほか時間がかかってしまいました。コメントを下さった方々ありがとうございます。こんなに詩的なものではなかったかもしれませんが、ほぼノンフィクションです。
  • Artificier_nuit
    ふっしーがトゥギャッてくれたことだし、別に文章を書き換えました。同じテーマでも形容表現や描写を増やすだけで、浮かぶ映像はずいぶん変わります。http://kenbunden.net/wpmu/kbd_kimoto/
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