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  • chimumu
    0.はーい、chimumuだよ。じゃあ、久しぶりに映画のストーリーについてつぶやくよー。今日、取り上げる映画は『スティング』(ジョージ・ロイ・ヒル監督)だ。
  • chimumu
    1.この映画は脚本が素晴らしいことで知られている。詐欺を扱ったコメディだ。脚本が悪くては傑作にはならない種類の映画だね。脚本はデヴィッド・S・ウォード。ほとんどコレ一本の人だが、生きてるうちにこれだけのものを書けたら脚本家としては最高だ。
  • chimumu
    2.まず、エンターテインメントとしての全体的な構造だが、<主人公の詐欺師たちが相手(敵)を騙し、そして観客をも騙す>という具合になっている。今日はこの構造の種明かしをしたいと思う。
  • chimumu
    3.その前に、この手の映画で押さえておかなけばならないことを確認しよう。主人公は詐欺師。ってことは悪い奴だ。ということは観客の共感をもたらすためには工夫がいる。騙す相手(敵)をもっと悪い奴にしなければならない。
  • chimumu
    4.いくら二枚目俳優ふたりが出ていても、オレオレ詐欺を働いてお婆ちゃんの遺産を全部頂いちゃいました、という話だとこれはまたスカッとしないよね。まず、主人公と敵を見てみよう。
  • chimumu
    5.おっと、その前に舞台となっている時代について知っておこう。1936年のアメリカ。不況まっただなかだ。食い詰めたホーボーがあちこちに出現。一方のギャング達は禁酒法時代に密売で稼いで実業家になっている。みんなが食い詰めているのに、自分は非合法でぬくぬくと太っている。これは、悪い。
  • chimumu
    6.登場人物の配置はこうだ。不況のさなか、食い詰めた詐欺師達が、金持ちのギャングの親玉にノミ屋の詐欺を仕掛けるという構造だ。そして動機としては仲間の復讐がある。
  • chimumu
    7.ところで、敵というのは悪い奴というだけでは足りない。「悪くて強い」、これが物語上では敵としての重要な要素である。では強さを表現する時にどうするか。アマチュアのライターは足し算を使う。子分が大勢いる、権力と通じている、金を持っている……。
  • chimumu
    8.逆に『スティング』は引き算だ。この親分をストイックにしている。酒を飲まず、女にも手を出さない。ギャンブルは高級カジノだけ。つまり引き算だ。これでは、詐欺師にはとりつく島もない。これが強みだ。
  • chimumu
    9.こういう難攻不落のキャラクターをつくりあげておいて、1カ所“ほころび”を作る。この親分、列車内でのポーカーが好きらしい。しかも金持ちの癖に自分でイカサマをする(巧い! ある意味ビョーキだ)。じゃあ、まずは、ここから攻めていこうというわけだ。
  • chimumu
    10.主人公達は、イカサマのポーカーで徹底的に勝つ。そして、頭に血が上った相手がイカサマで逆襲してきたところを、さらにその裏をかいて、大勝ちし、大いに恥をかかせる。
  • chimumu
    11.さらに、仲間の一人が「あれイカサマだよー」とチクる。親分としては腹が立たない筈がない。そう、これは、相手に復讐心を起こさせて、その復讐心を利用して復讐するというひねり技なのである。
  • chimumu
    12.そして、ここまでの騙しのテクニックは観客にも丸見えである。これを倒叙型という。観客は自然と詐欺師達と一緒になって親分を騙しているような錯覚に陥る。そう、ここ、これがこの映画の話法の罠なのだ。
  • chimumu
    13.前半の展開から、物語の情報はすべて与えられていると観客は信じる。しかし、実は観客に与えられる情報は巧みにコントロールされているので、コロリと騙される。こういうわけだ。
  • chimumu
    14.この映画は巧みなトリックで観客を騙しているのではない。観客を騙すのに大きく貢献しているのは、観客のストーリーを読み取る力(習慣)だ。さて、この映画で観客がついつい引っかかるのが、殺し屋の正体がバレるくだりと、FBIのくだりである。ここを見てみよう。以下、ネタバレあります。
  • chimumu
    15.まず、食堂の幸薄そうな女主人が実は殺し屋だったというバレがある。ここで観客はまずあっと言わされる。なぜか?
  • chimumu
    16.ハリウッド映画のストーリーは、大抵、事件というメインプロットと人間関係からなるサブプロットが寄り合わさっている。この人間関係でよくあるのが、ラブストーリーである。
  • chimumu
    17.『スティング』にはヒロインがいない。それで、この女主人が出てくると「あー、これはラブストーリーの流れだな。渋い顔してるが、ヒロインとして見てればいいんだな」とつい観客は思ってしまうのである。ところがロマンスのプロットだと思わせて、ピストルが出てくる。ショックだよこれは。
  • chimumu
    18.FBIのくだりも、物語の法則を利用して観客を騙している。この映画のストーリーは「主人公達が計画を立ててそれを遂行する」という大枠からなっている。これをとりあえず「計画モノ」と呼ぼう。
  • chimumu
    19.計画モノは、「うまく行くはずだったのに、計算が狂ってうまく行かなくなる。さあ、どうする」という展開が非常に多い。この物語の法則が観客にインストールされているから、FBIの登場を「計画遂行の危機」として読みとってしまうのである。
  • chimumu
    20.トリックそのものはさほど複雑ではない。もっと言えば、あまり複雑なトリックは映画に向かない。ここで観客を騙しているのは、観客が知らず知らずの間に学んだ物語の法則なのである。
  • chimumu
    21.だから映画ファンであればあるほど、二度三度見ても、そしてネタがわかっていても、「騙されたい」と不思議な気持ちになる映画である。
  • chimumu
    21.観客は騙されたことを大喜びし、劇中では、騙された当人は騙されたことに気がついていない。これが『スティング』の粋なところだ。
  • chimumu
    22.はーい、今日はここまでだよー。次はさらに<ひとつの映画の中で物語のジャンルをシフトする>というテクニックを紹介する(つもり)だよー。
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