「津田大介 日本にプラス+」雁屋哲氏ゲスト放送回【文字起こし】雁屋氏:これはあくまでも仮説

CSテレ朝チャンネル2 2015年5月26日(火) 23時10分~24時00分 の放送内容 「雁屋哲氏が出演!『美味しんぼ』“鼻血問題”の真意を聞く」雁屋哲漫画原作者 「美味しんぼ」雁屋哲氏が騒動以来初のテレビ出演。批判にどう答えるか?作品の真意とは?
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津田大介 @tsuda

しかし、北海道新聞の記事がまた炎上してるみたいで、そんなタイミングで告知するのもアレなのですが、来週の5月19日(火)23時からCSテレ朝チャンネル2でやっております「津田大介 日本にプラス+」という番組で「美味しんぼ」の原作者雁屋哲さんがゲストで来るのでぜひ皆様見てくださいね。

2015-05-12 01:54:43
津田大介 日本にプラス+ @tvasahi_n_plus

5月19日(火)よる11時10分の放送は「雁屋哲氏が出演!『美味しんぼ“鼻血問題”』の真意を聞く」(ゲスト:雁屋哲・漫画原作者)です。漫画『美味しんぼ』原作者の雁屋哲氏が、“鼻血”騒動以来、初めてテレビに出演します。 pic.twitter.com/9M5BlKPzHG

2015-05-19 12:56:23
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津田大介 日本にプラス+ @tvasahi_n_plus

去年4月、連載中の漫画『美味しんぼ』「福島の真実編」で、主人公・山岡士郎が福島第一原発を見学した後、鼻血を流す描写が波紋を広げました。住民、自治体、閣僚などから批判が飛び出し、大きなニュースになりました。半年ほど沈黙を守った雁屋氏は今年2月、自身の考えを記した本を出版しました。

2015-05-19 12:56:56
津田大介 日本にプラス+ @tvasahi_n_plus

番組ではまず、雁屋哲氏が去年4月『美味しんぼ』「福島の真実編」の“鼻血描写”の当時に浴びた、住民、自治体、閣僚などの批判に、どう答えるか聞いていきます。また、“鼻血描写”についての国側の見解、複数の専門家の意見を紹介した上で、それに対する雁屋氏の考えを聞いていきます。

2015-05-19 12:57:14
津田大介 日本にプラス+ @tvasahi_n_plus

雁屋哲氏に聞くもう一つのポイントは、『美味しんぼ』「福島の真実編」で何を伝えたかったのかです。鼻血描写は「福島の真実編」単行本下巻の240ページ目ですが、それ以前に「福島の真実編」は上下巻合せて490ページも描かれていました。そこに何を描き、何を伝えたかったのかを聞いていきます。

2015-05-19 12:57:27

*スタジオ(敬称略)

  • 津田大介:メインキャスター
  • 下平さやかアナウンサー:サブキャスター
  • 雁屋哲・漫画『美味しんぼ』原作者:ゲスト

  • 下平:今日はまずこちらからご覧頂きます。去年4月に発売されました週刊ビッグコミックスピリッツ5月12・19日合併号です。この中で連載された漫画『美味しんぼ』の「第604話・福島の真実22」こちらは主人公の山岡士郎ら取材チームが福島第一原発を取材し、その後鼻血を流す場面が描かれました。これに対し地元の住民、自治体関係者、関係閣僚などから批判が飛び出し波紋を広げました。そして、出版社の小学館は6月2日号で美味しんぼの福島の真実編に寄せられた「批判とご意見」と言う事で専門家や関係者の意見、編集部の見解などを10ページに渡って載せています。
    更に美味しんぼの福島の真実、こちら下巻単行本、去年の12月に単行本になり発売されていると言う事なんですね。
    一方、原作者の雁屋哲さんは半年ほど沈黙を守っていましたが、今年の2月こちらの本『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』を発表。福島の真実編を描いた経緯、様々な批判への反論、福島への思いなどが記されています。今日はその雁屋哲さんをゲストにお迎えしました。雁屋さんどうぞ宜しくお願いします。

  • 津田:宜しくお願いします。

  • 雁屋:どうも宜しく。

  • 下平:今日はですね雁屋さんに福島の真実編をなぜ描いたのか。そして発売直後に何があったのか。更に寄せられた批判にどう答えるのかなど、様々な点を伺っていこうと思うんですが、まずはその前に雁屋さんのプロフィールをご紹介して参ります。
    雁屋さんは1941年中国・北京生まれです。
    東京大学教養学部基礎科学科で量子力学を学び電通勤務を経て、1972年漫画原作者としてデビュー。1983年週刊ビッグコミックスピリッツで『美味しんぼ』の連載を開始、これは30年以上連載が続き単行本は111巻。累計発行部数は1億2千万部を、津田さん、超えているというんですね。

  • 津田:あの、雁屋さん普段はシドニーに拠点を置いているという事なんですけども

  • 雁屋:拠点と言うより、まあね、(一年の)ほぼ半年以上かな。

  • 津田:(半年以上を)シドニーに住まれて、今回の福島の真実編で鼻血の問題というかメディアで騒がれた時にはどちらにいらっしゃったんですか。

  • 雁屋:騒ぎが起こった時?それはシドニーにいたんですよ。全然知らなかった。

  • 津田:報道はどのようにご覧になってました?

  • 雁屋:えっとね、要するにこの美味しんぼって、この福島編っていうのは、これは上下があるんですよ。ずっと読んで頂ければ私の気持ちも分かったろうと思うんだけれども。最初にお出しになった週刊誌(ビッグコミックスピリッツを指して)、それの山岡が鼻血を出すひとコマね、そこだけを取り上げて皆んな騒いだんですよ。それはちょっと僕はね納得いかないですね。ずっと読んで頂ければ、この位の事でそんな騒がないはずなんですよ。だから、そこが僕にとっては納得出来ない、読んでくれて無いんじゃないの?って。

  • 津田:この後ですね、騒動が起きた半年以上、雁屋さん沈黙を守っていた訳ですけども。まあ、こちら今回2月に「鼻血問題」に答えるという本を出版されて。この本を書こうと思われた理由を教えて頂けますか。

  • 雁屋:ええとね一つはですね、その騒動が起こった時に、すぐ反応しなければいけないなと思ったんですよ。で、編集部に物凄く抗議っていうか文句を言う電話が沢山かかってくるって聞いてね。それは不公平であると。「書いたのは私なんだから私のブログに書き込みなさい」って私のブログに書いたら、私のブログには全然碌に何もこないでね、逆に編集部にいって。で、編集部に「お前ん所が本をあいつ(雁屋)に出させたんじゃないか。お前ん所が悪いんだ」って。編集部、電話回線20回線引いたんですよ。それに朝から晩まで電話かかってきて。その電話が普通じゃないんですね。いきなり取り上げて「スピリッツ編集部です」って出ると怒鳴る、喚く。同じ事を延々と1時間ぐらい言うんですって。

  • 津田:それが、でも本当に福島のかたからの抗議なのか、そうじゃないかは分からないって状況だったんですね

  • 雁屋:それは分かりません。うん。で、それをずっとやられて。僕がブログに何か書くと、それに過剰に反応するんで。沈静化させるためにブログに書くと返って煽ることになってしまうのかと。訳が分からない事になりましたんでね。それじゃ一切沈黙を守ろう。で、何も言わずにずっと黙っていた訳です。その間、僕のブログに色んな方からメールが来ましてね。2週間で900通ぐらい頂いたかな。その内の95%以上は僕を支持していましてね。

  • 津田:これはつまり、よく言ってくれたという事ですね。なるほどね。そういう所も含めてですね、いずれにせよ本当に色んな意味でのメディアで批判された、でも漫画、フィクションでもありノンフィクションでもあるというのが美味しんぼの大きな特徴でもある訳ですけれども、でもその漫画の影響力というかね、もう結局これ政府がね閣僚までが、それに対して言うことになってしまった。それだけの影響力を持った作品でもあるし、問題提起でもあったという事なので今回はですねその辺りも含めて、じゃあ雁屋さんがどう批判に答えていくのかというところも含めて伺っていきたいなと思いますね。

  • 下平:それでは津田さん、ここで改めて今日のテーマをお願い致します。

  • 津田:はい。本日のテーマはこちらになります。『(テロップ)今日のテーマ:雁屋哲氏が出演!「美味しんぼ”鼻血問題”」の真意を聞く』

  • 下平:それでは一連の経緯をまとめてありますのでこちらをご覧下さい。

(映像開始)

  • ナレーター:2014年4月28日に発売された週刊ビッグコミックスピリッツに掲載された『美味しんぼ』「福島の真実22」は福島第一原発を取材した後、主人公山岡士郎は疲労感を覚え、そして鼻血が出る。士郎と一緒に取材した父、海原雄山も鼻血が出た。福島県双葉町の井戸川克隆前町長は言う。「私も鼻血が出ます。福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」これらの場面は各方面で波紋を広げた。

─福島・いわき市内仮設住宅(2014年5月8日)─

故郷を離れて避難生活を送る双葉町民は鼻血が出たことはあるかと聞かれて。

◆仮設住宅で暮らす双葉町の住民(男性)
そんな事全然ねえし、そんな話も聞いた時もねえ。いかにこの原発ってものが恐ろしいもんだがっていう、大きく宣伝するための口実だど思う。そんな事はありえねえし。

◆仮設住宅で暮らす双葉町の住民(女性1)
本は読まないけどテレビで観まして、(鼻血は)あんまし聞かないですね。うん実際には。

◆仮設住宅で暮らす双葉町の住民(女性2)
(鼻血の事を)あれは言っちゃいけないかなって思いますね、やっぱりね。でも、実際鼻血出てる人もいるのか、いるような話も聞いた事もあるので、無いことはないのかなとも思うし、でも福島のイメージは絶対悪くなると思います。


  • ナレーター:次に発売された「福島の真実23」は、ここでは井戸川前双葉町長が「私が思うに、福島に鼻血が出たり、ひどい疲労感で苦しむ人が大勢いるのは、被ばくしたからですよ。」と、語るシーンが描かれた。当時の福島県知事は風評を助長すると批判した。

─福島県知事(当時)─

福島県 佐藤雄平知事(当時):県民の皆さんが一丸となって前向きにどんどん復興を進めている中で、この美味しんぼの内容が全体の印象として、風評を助長する内容になっております。この事は誠に残念であって極めて遺憾であると思っております。

─石原伸晃環境・原発担当大臣(当時)─

因果関係はないという話を聞かせて頂き、またそれが医学会の通説として定着している中で何故この様なことが起こるのか、福島県民の皆様方の思いをおもいますと大変遺憾な事なんではないかと言わざるを得ないんじゃないかと思っております。

─根本匠復興大臣(当時)─

地元の方々の心情に鑑みれば、漫画とはいえこの様な地元の方々の不安や風評被害を招きかねない内容が描写されている事。私は誠に遺憾な事なんではないかと言わざるを得ません。


  • ナレーター:一方、漫画にも登場した井戸川克隆前町長は会見でこう語った。

    ─井戸川克隆前双葉町長(2014年5月19日)─

    私はそう思ってると。鼻血は放射能の影響だと私は思ってます。

  • ナレーター:噴出する批判について原作者の雁屋氏はブログで「書いた内容についての責任は全て私にあります。スピリッツ編集部に電話をかけるのはお門違い」と書いた。
    5月19日発売の『美味しんぼ』「福島の真実・最終話24」で美味しんぼが暫く休載に入ることが発表された。そして巻末には「福島の真実編」について識者や関係者が寄せた批判や意見が10ページに渡り掲載。さらにスピリッツ編集部の見解も載せた。
    『美味しんぼ』「福島の真実編」の後半をまとめた単行本、第111巻は去年12月出版された。騒動以来、半年以上沈黙を守ってきた雁屋氏は今年2月『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』を発表。自身の見解をまとめた。雁屋氏は当時浴びた批判にどう答えるのか。「福島の真実編」で伝えようとした事とは。
    雁屋哲氏に、美味しんぼ「鼻血問題」の真意を聞く。

    (映像終了)

  • 下平:ご覧頂いたように、こちらのビッグコミックスピリッツに掲載された「福島の真実編」への批判、閣僚や自治体からも飛び出しました。

─菅官房長官(2014年5月12日)─

政府としては福島において事故に伴う放射性の住民の被曝と鼻血に関係があるとは考えられない

─石原伸晃環境・原発担当大臣(当時2014年5月12日)─

風評被害になるようなことがあってはならない

─根本匠復興大臣(当時2014年5月13日)─

地元の方々の不安や風評被害を招きかねない内容が描写されている事。私は誠に遺憾な事


  • 下平:津田さん、こう述べていると。

  • 津田:うん、先ほどですね雁屋さんがですね、漫画の鼻血のひとコマだけを取り上げて批判されている事に対して残念だってお話があったんですが、確かにですねこの「福島の真実編」上下を読むと、そもそも原発事故があって、放射性物質が福島県内に広く拡散された事によって土壌が汚染されますよね。それによって美味しんぼってこれ食文化の漫画でもあるので、福島の豊かな食文化が壊されて、そしてまだ未だに色んな事に苦しんでいる農家の方々がいらっしゃる。それを様々な地域で綿密に取材されて、しかもそれはもう実際に暮らしてらしてる方に、これはノンフィクションとして取材した事が描かれているという風に思うんですが、その中で最後のほうで山岡が鼻血を出すという事になっているんですが、僕は確かに前を読んでくるとあのシーンの印象って変わるんですが、ただ同時にちょっと唐突に山岡が鼻血を出したのかなって風に見える所もちょっとあったのかなって、この辺りの真意を。

  • 雁屋:えーとね、ひとつですね、先ず私は美味しんぼの福島編の第1回を見て頂ければ分かるんですけども、会津のお米を作ってる農家の方が「自分のお米は全然、放射線の被曝量とかそういうもの全然無いのに、会津産だっていうだけで誰も買ってくれない」と。それは駄目だろうと。で、全部その彼は、こういう検査表まで付けていて、理化学研究所のね一番精密な検査器ですよ。

  • 津田:ほとんどベクレルは出ないと

  • 雁屋:出ない。全然出ない。それなのに買わない。それはおかしいんじゃないかってんで、僕はそれを先ず売ろうと(笑い)

  • 津田:つまり「福島の真実編」の一番最初は所謂、風評被害によって売れなくなっているお米を何とか売ろうというところからストーリーが…

  • 雁屋:僕は大きな有機農業販売会社の社長まで会いに行ったんですよ。で、「買って下さい。」(と言ったら)向こうの人が驚いてね。「雁屋さんが売り込みに来るんですか」って驚いてましたけどね。でも、そのくらいやったんですよ。それから、他の所にも周って何とかその低線量でいくんだったら良いんじゃないかという風に思っていたんですが、その内に段々ちょっとこれはまずいなと思ったのは、農産物はどういう訳か知らないんですけど、土地って大地っていうのは大きいですよね。それにセシウムが降ってきても大地のほうが圧倒的に量が多いんで、セシウムはプラスのイオンを持っている、大地はマイナスイオンを持っている。すると大地はセシウムを引きつけてしまうんですよ。なかなか作物の方には行かないんですね。作物には行かないんだけれども土壌汚染は変わってないんですよ。そこで作業をしてる人達が、郡山の所でも描いたんだけども、怖いって言うんですね。土が放射線が中に入っていく。微粒子が沢山入っていく。それを浴びるのが怖いし、中に入っていくのも怖いし、空間線量だって結構高い訳ですから、微粒子が更に入ってくると、もし吸い込んだり皮膚についたりしたら嫌だ、怖いってそういう話を幾つか聞いてる内に、これはまずいなと。

  • 津田:確かに実際に事故が起こった後ね、皆さんすごく農家の方が努力をして実際に作ってみたら、思っていたよりかは作物に放射性物質は出なかったけれども、しかし農作業でね当然手に傷がついたりもして。

  • 雁屋:それが一番怖いし、そしてそこにもし子供達が住んでいてね。自分の家の庭の周りとか、学校の運動場なんかでね、一応みんな除染したって言うけど、除染ってすぐ戻ってきちゃうんだよね。

  • 津田:あの雁屋さん、本当に相当多くの農家の方々、そしてあのまあ福島に残るという選択をして農家を続けるという選択をした方々のお話を伺ってると思うんですけど、彼らが一番抱えていたジレンマって何だったんですか。

  • 雁屋:一番大きな問題はですね、ここを出て行ってしまって他で自分が生きる事が出来るだろうかってことですよ。別の土地に行ってそこで農業をまた出来るだろうかって言う事。それからもうひとつ普通の人は農業でなくても、福島県を出て行ってそこで新しい自分の職場が見つかるか仕事が見つかるか、それが一番怖い。それからもうひとつは、これは僕は良く分からないんだけども、それはないでしょって僕は皆んなに言うんですけどね、土地に対する愛着があるって。この土地から離れたくないって。僕はそれは違うだろうって言ってるのは、昔から伝統のある100年200年も続く物凄い立派な家ありますよね。そこに対する愛着っていうのは僕は良く分かりますよ。でも、もしその家が家事だったらそこにとどまりますか?

  • 津田:命の危険がある訳ですよね

  • 雁屋:ええ。放射線ていうのは痛くも痒くも何も感じない訳ですよ。でも、じわじわと3年~5年の間に傷つくこともある訳ですよね。あくまでも放射線の場合厄介なのは、パーセンテージで行くわけですよ。同じ放射線を浴びていても全然反応しない人もいるし、反応する人もいる訳ですよね。で、そうやって「僕はもう年取ってるから、ある程度年取ってるからもう構わないよ。ここに居続けるんだ」って人もいます。そういう人達は僕にとってはそれは違うだろうと思うんですけれども。

  • 津田:それはやはり当然、まあお子さんとかまだ若い世代のって事もある訳ですか

  • 雁屋:そういう方のお子さんは外に出す人が多いですね。

  • 津田:なるほどね

  • 雁屋:ご自分だけはもう年だからもう構わないやって言って残るんだけども。

  • 津田:まあ凄く色んな物のこれから生じうる健康被害へのリスクと、そしてでもこの土地で農業を続けたいというその中で苦渋の決断をされていると。

  • 雁屋:いや行く所が無い。一番大きいのは。ここを出て行ってどこに住んで、どこで仕事が出来るのか。それが無いっていうの一番。で、土地に対する愛着っていうのも、もし変わりの場所が見つかったり仕事が見つかったりすれば、そこまで言わないだろうと思う。

  • 津田:それは本当に色んな方々、ケースバイケースでしょうし放射線量で言っても多分違っては来るんでしょうけどいずれせよ、そういった状況を作ったのは原発事故でもあるっていう。

  • 雁屋:だから、その人達の責任ではなくて東電と国がですね、そういう方々に大体の場所を探して差しあげるとかね。新しい仕事を見つけてあげる。また仕事が見つかるまでの補償をちゃんとしてあげるとか。そういう事をしないとその人達は動けませんよね。

  • 津田:鼻血はご自身の体験、山岡が

  • 雁屋:あれは私の体験です。

  • 津田:そうなんですよね。その時の状況をちょっと教えて頂けますか。

  • 雁屋:それはですね、原発から帰ってきましてね。その時に一番3号器の裏を走った時に1,600マイクロシーベルトだったかな。

  • 津田:そうですね、原発の構内に入られたんですよね

  • 雁屋:それはね、バスで周っただけですから。外からあたっただけだから、外部被曝で持ってそれでもって鼻血が出るなんてそんな事ありえないわけですよ。僕はきっともう随分福島に言って取材慣れしてしまってるんで、車から降りる時とか何かの時とか、もうマスク面倒くさいや、あれ息苦しいんですよ。で、マスクって中にケミカル、化学物質が入ってるでしょ。凄い辛いの。だからねえ、思わず取ったりするんだよね。その時にその辺を漂ってるものが入ってきたんじゃないかなあと思うんだけども。とにかく帰ってきて2~3日経ってからかなあ、晩ご飯の時に食事してたらいきなりこうヌルヌルっと来たんですよ。

  • 津田:表現としては

  • 雁屋:そう。ヌルヌルっと来たんだよ。それで僕は今まで子供の時から鼻血なんか出したことが一回しか無いんで

  • 津田:じゃ本当に無かったんですね。

  • 雁屋:無いですよ。しかもそのヌルヌルって沢山出てんだよ。ほんで慌てちゃって、どうしたらいいのか分かんなくてティッシュペーパー箱半分使いましたよ。翌日の夜2時ぐらいに、ふっと夜中目が覚めたらなんかヌルっとくる。えっ、枕元の電灯をつけたら出てた訳です。でも、それも2回目だったからそんな焦らずに

  • 津田:それで病院に

  • 雁屋:違う!その次の日。仕事していてアッと感じるんだ。触るとドゥーィと出るの。これは3日も続くんでこれは冗談じゃないよって病院に行きまして

  • 津田:なるほど

  • 雁屋:医者は、やはり原発を見たからっていう風な知見はないって言う。勿論ないでしょう。で、誰かさん分かったような事を書いてる人がいますけども、そんな位の放射線を受けたぐらいで造血機能は壊れないと。そういう人は何にも分かってないですよね、ここにも書いてあるけど、造血機能ってのは普通、骨の中にあるんですよ。特にあの肋骨とか、この辺の骨の間の骨髄の中にあるんですね。その骨髄の中に造血機能があって、それを壊す為にはかなり強烈な放射線を外から浴びなきゃいけないの。そんな状況には福島ないんですよ。

  • 津田:そうですよね、もっと低いですよね。

  • 雁屋:福島で造血機能が壊れて鼻血が出るなんてありえないんですよ。福島を取り巻いてる状況っていうのは放射性微粒子が飛び回ってるわけですよ。その放射性微粒子が鼻の粘膜にくっつく。1個1個の放射性微粒子は本当小さくて2マイクロとか3マイクロとか、そんな小さいものですよ。それ4つか5つ鼻に着きますよね。そうすると、1つあたりの出す放射線は弱くても鼻にピッタリくっついてしまうと、その間に距離がないわけですよ。そうすると小さいものでもそこの所に影響が凄い出てくる訳ですよ。

  • 津田:つまりあの雁屋さんのお立場としては、あれぐらいの放射線量で鼻血なんて起きるわけがないと批判している方々というのは、例示として適切じゃないと言う事ですね。外部被曝の放射線量で起きるのではなく、放射性微粒子が内部被曝をすることが原因で鼻血が出ると。

  • 雁屋:放射線ていうのはね、例えばX線の写真を撮る時に、X線を出す機械がありますよね。X線が出てきて僕達があびて、そこにフィルムを置いて投射した画像が出る訳ですよ。要するに放射線源はひとつ。所が福島の場合はひとつじゃないんですよ。原発に入れば1号機とか2号機とかそこ行けば強烈な放射線が出てますから、そこ行ったらいけませんよ。だけどそういう状況じゃないんだから。福島は普通の街でそれで出るわけですから。

  • 津田:日常生活の中での内部被曝と何らかの関係があるかもしれないって事ですね。ただ一方ですね、先ほどVTRで双葉町の仮設住宅の人にお話を伺ったら、鼻血が出たなんて話は聞いた事ないといった、ああいった反応もあった思うんですが、あれは如何ですか。

  • 雁屋:ええとね、これは福島で2年間ぐらい取材を続けてきた方に聞いた話なんだけど、福島ではふたつに別れてしまったと。ひとつは、もうこのままでいいじゃないかと。もうひとつは危険だから何とかしようよと。で、危険を言う人、鼻血が出た、疲れる、体に悪いよ、子供は外に出さなきゃいけないってそういう人達を何を今更言ってるんだと。このふたつに別れてしまって、その両者が繋がらないんだって。もうひとつはさっき言ったように、必ずしも放射線の影響って100人が100人全部出るわけじゃないですから確率で出るんですよ。チェルノブイリの調査の結果5人に1人だっていうんですよね。5人に1人だと出ない人が圧倒的に多いですよね。

  • 津田:実際、僕も原発の中にも入りましたし、福島の避難区域に良く取材に行ってますけれども、僕は鼻血は出たことは無いんです。

  • 雁屋:出る人は五分の一だと。そうすると、ただもし普通の食べ物を食べていて5人に1人が食あたりするような食べ物を食べますか?

  • 津田:まあそうですね。そこの確率論がどこまで科学的にいま議論として…

  • 雁屋:もうひとつは、そういう事をちゃんと議論し合いましょうって事ですよ。それを、最初からそんな事はありえないって決めてしまったら何も話は進まないんですよ。

  • 津田:あの、専門家にね、いくつかこの問題について聞いているんですね

  • 下平:そうですね、先ずは鼻血と被曝との因果関係についての政府の見解です。

    ─環境省(2014年5月13日)─

    ・国連(UNSCEAR)が公表した「原発事故による放射線のレベルと影響評価報告書」(2014年4月公表)によれば、住民への健康影響について『確定的な影響は認められない』とされている。
    ・福島第一原発の事故の放射線被曝が原因で住民に鼻血が多発しているとは考えられない

  • 雁屋:それはこの鼻血問題に対する答えだと思うんだけど、それは彼らは国連のその報告を元にして「考えられない」「認められない」って言ってるんですよ。自分で実験した訳じゃないんですよ。

  • 津田:実態調査ではなくて

  • 雁屋:実態調査ではない。国連の発表したものによると「考えられない」って言ってるんですよ。そんなのどうかしてますよ。ちゃんと試して欲しい。

  • 津田:鼻血問題のひとつの論拠になったのは、震災直後からの疫学調査がありましたね。疫学調査の中で鼻血が出したっていう人がちょっと増えているって疫学調査自体は出ていて、逆に言うとそこしかまだあの…

  • 雁屋:いや、沢山子供達の例もありますし、(反論本を指して)ここにいくつかデータや例が書いてあります。

  • 津田:もうひとつ、ちょっとじゃあ(下平アナに向かって)

  • 下平:そうですね。こちらはスピリッツの編集部に寄せられた専門家の意見です。

─野口 邦和 准教授(日本大学歯学部・放射線防護学)─

福島県内で被曝を原因とする鼻出血が起こることは絶対にありません。ごく短期間に全身が500~1000ミリシーベルトを超えるような高線量の被曝をした場合、被曝を原因とする出血の起こる可能性があります。福島県内でそのような高線量の被曝をする状況にありません。

─山田 真 医師(子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク代表)─

『美味しんぼ』の中で鼻血が出るメカニズムを説明し活性酸素が出来て細胞を傷つけるという放射線の作用はあり得ますが、それで鼻の粘膜細胞がやられて鼻血が出るというのは科学的に疑問。放射線が体内のDNAを傷つけることはありますが、粘膜や毛細血管を直接傷つけるという説明には無理がある。

  • 津田:先ほど雁屋さんが「科学的に議論」って話だったんですけども

  • 雁屋:そうですね、最初の日大の先生ですか、その方のおっしゃっているものを見ると「500~1000ミリシーベルトを超えるような高線量の被曝」っていうのは福島ではありえないと。(雁屋が)先ほど申し上げました。

  • 津田:原発の中じゃないと

  • 雁屋:原発の中でも中々ない。普通の福島の人達の生活環境ではあり得ない。だからこの人は(野田准教授を指して)最初からあり得ない事を言っている。

  • 津田:「絶対に」って言ってますね。

  • 雁屋:自分が第一原発の中に入っていって1号機か2号機に近寄らなければ絶対にあり得ません。だけど福島の普通の街で普通の土地では、あり得る。何故かと言うとさっき言ったように、そういう大きな放射線源から福島の人はあびてる訳じゃないから

  • 津田:先ずだからあれですよね、これ、だから、いっこ整理したいのは、因果関係があるかどうかっていうのは、まだ専門家によって意見が別れるけれども、先ず事実として雁屋さんは鼻血を出した。

  • 雁屋:それからもうひとつは、放射線源のあり方をきちんと考えて頂きたい。こういう大きな強力なる放射線源に我々は、福島の人は接しているのか?接していません。で、普通の街に土地で暮らしていて、そういう人達、僕もそうですよ、それで出るわけですよ。って言うのは、放射線源の考え方はICRPっていうのがありますが、あそこの考え方では放射性微粒子の影響ってのは考えたくないんですね。だから、放射性微粒子が鼻粘膜にくっついた場合に、もう一人の人は(山田医師を指して)粘膜に被害があるのはおかしいって言いますが、それもこの漫画に描いてありますが、ペトカウっていう人の理論でありますと、粘膜も壊れます。それから毛細血管も壊れます。その微粒子があるってことは他の研究者がフィルターを使って発見してるんですよね。それはここ(反論本を指して)に書いてあります。

  • 津田:それは山田医師のような専門家に対しての反論でもあるっていう事ですね。

  • 雁屋:ただこの人は(山田医師を指して)そこんとこ全然知らないの。

  • 津田:これ、でもあれですよね、ただまあ、このフリーラジカルの話に関しても勿論そういう学説もあれば、いやそんな影響は無いんだっていう、医師達の間でも断定でき無い状況がある中で、100%これに影響があるって言えない状況で、これがある意味、現代の医療の限界だと思うんですが、そこに関しては雁屋さんは因果関係があるんだって断言されて、これの怖さって…

  • 雁屋:断言ではなくて、やはり僕は自分はこれはあくまでも仮説だと思っています

  • 津田:仮説を提示したということなんですね。

  • 雁屋:そうです。科学というものはサイエンスというものは、先ずひとつの事実が起こったとする。それは自分たち今まで未知だった、未知の事実が起こったとする。それは今まで自分達が持っている科学的理論で説明出来るものなら良いんだけども、出来ない場合どうするか。それを無理やりこれは我々の理論に合わないからこんな事ウソなんだ、あり得ないって言ってしまったらもう科学ではない。では一体これは我々の未知の事実などが発見できた場合に何が起こったんだろう。自分達が持ってる科学理論を総動員して自分の仮説を立ててみるべきです。そしたら、その他の人達がまたチャレンジして別の仮説を立てる。そうやってジグザグジグザグいってひとつの理論に達する。それ今までのサイエンスというものの在り方です。サイエンスというのはそのようにして進歩してきたんです。だから、今まで持っている理論から外れたら、それはウソだと言ったらガリレオはどうなるでんすか?ニュートンはどうなるんですか?アインシュタインはどうなるんですか?彼らはそれまでの科学では突きとめられないような事実を説明していった訳ですよ。それはその彼らの説を最初、例えばアインシュタインの説なんかは仮説だったんだけども確かめてみたら皆んなが確かめてみたら本当の理論で、アインシュタインの理論は正しかったんだと。そういう形をしないといけないんです。で、今の我々が面と向かってるのは、我々は経験したことのない放射線被害なんです。だから例えばそのフリーラジカルの説もあるだろうし、それがダメだという説もあるだろうし、それはそれで研究し合いましょう。話しあいましょう。それをいきなり、無いとか、風評被害だとかそういう風に頭から決めてしまったら、もう科学はなくなってしまう。

  • 津田:そうですよね。まさにそこの仮説に雁屋さんが至るにいたった取材のプロセスの話を伺いたいんですが。(下平アナに向かう)

  • 下平:そうですね、美味しんぼの福島の真実なんですが、鼻血描写もある単行本の111巻(全面に提示しながら)こちらなんですね。実はその前に描かれた上巻にあたる110巻があるんですね。つまりこの2冊合わせて福島の真実編と言う事になんです。雁屋さんは福島の真実編の原作を書くにあたって2011年11月から2013年5月まで福島県の相馬市、会津若松市、いわき市、喜多方市、田村市、南相馬市、福島市、二本松市、伊達市、矢祭町、郡山市、富岡町など各地を何度も取材したという事なんですね。

  • 津田:これ本当に漫画なのに、っていうのもおかしな話ですけど、物凄く情報量が多い漫画で、やっぱり読むのに凄く時間がかかるんですよね。

  • 雁屋:すみません(笑い)

  • 津田:でも、これだけ綿密にやられていると思うんですけど、具体的にどういうプロセスで取材をやられてるんですか。

  • 雁屋:ひとつはですね、これ農業が僕は大事だと思ったんで農業については同じ場所を2度訪ねています。それは植え付けする前と、収穫した時とそれを一体どういう…

  • 津田:1回じゃ分かんないですよね。

  • 雁屋:1回じゃ分かんない。同じ所を2度訪ねています、時期をおいて。植え付けの前と出荷の後と。それで結果はどうでしたかって聞いて回ったんです。それからひとつの相馬の漁場であれば、最初に行った時は大変な酷い破壊状況だったんだけど、それからどのように水質が改善されたか、それを確かめるためにやはりそれも2度或いは3度行きました。そのようにしてひとつの場所をパーっと通り過ぎた訳じゃないんです。ちゃんとひとつひとつの場所を繰り返して訪ねてそれで書いたんです。

  • 津田:その中でですね、具体的に、じゃあ取材先とかどういう風に設定したんですか

  • 雁屋:あのね、私の大変役に立つ方がおりましてね。

  • 津田:色々なお手伝いをされる方ですか

  • 雁屋:うん、その方は青森に住んでおられるんだけども、東北関係の民俗学の専門家で異常なる頭脳の人でね、知らない事がないの。

  • 津田:これあの、取材をするときにですね、実在の人物が名前を明らかにしてセリフという形でなってるんですけど、これは正確性を期すっていう点ではどういう形でやられてるんですか。

  • 雁屋:ひとつは僕の想像ではないよって事です。その斎藤さんって方なんだけども、その方がこの問題について取材するべきはこことここが良いだろうって選定してくれて、そこに行ってその人とお会いして話して。僕は帰った後に原稿を書くわけですが、その原稿を必ずお見せします。

  • 津田:あ、そうなんですね。例えば1時間お話を伺ってもコマとしてはね多分2~3個とかになっちゃうんですよね。

  • 雁屋:そうです。

  • 津田:じゃあ、貴方の名前でこのセリフとして言いますがそれで良いですかって

  • 雁屋:そうです。良いですかって必ずお尋ねします。それで、その方が結構ですって言えばそれで入れるし、これはこうして欲しいって、そういう注文があった場合に、それが事実に反してない限り、必ず受け入れます。今回、福島大学の先生のセリフが雑誌の時と単行本になった時と変わっていますが、それはその先生は大学という狭い空間の中にいて酷いバッシングを受けて辛かった。それだったら、そのとき僕たちは取材する時にひとり記録係がいて女性がテープレコーダーを回しておきます。それから一緒にビデオテープを回します。あとデジタルのレコーダーもあるし、三重に必ず記録してます。特にビデオが必要なのは喋ってる時のその人の表情とか仕草とか、そういうものが大事なんですよ。

  • 津田:それはあれですね。作画の花咲さんにお渡しして、それでコマになっていく訳ですね。

  • 雁屋:そうです。その時にセリフが大変にある訳なんですよ。その中で僕は選択してこのセリフでどうだろうって書いたらバッシングを受けたんで、同じ先生のセリフの中で比較的あたりの柔らかいセリフを選んで、単行本にする時は載せたんです。

  • 津田:なるほど。

  • 雁屋:何故かと言うと週刊誌っていうのは大体2~3週間で大体影響は消えますが、単行本になると20年も30年も持ちます。その度にその先生がバッシングを受けたら可哀想だと思って、そういう風にあたりの柔らかい、でも絶対その通りのことを書いたんです。

  • 津田:そしてまたそれを本人にも納得ずくの上でしてると。これ、でも本当その気が遠くなるようなこれ修正も含めた取材も含めた作業だと思うんですけど、そのぐらいこのかけて、変な話ですけど僅か2巻分にするだけの労力をかけて、作ってるっていうことだとも思うんですが、何故そこまで福島に対する思いみたいなものを伺いたいんですが。

  • 雁屋:あの、ここにも(反論本を指して)書いてあるんですけど僕、大学の受験の年と大学に入ってから2年間続けて、福島の霊山町の霊山神社に…

  • 津田:このあのストーリーあれですね、海原雄山と山岡士郎が和解するきっかけの場所ですね。

  • 雁屋:そう。そこを僕はどうしても和解するきっかけの場所にそこを使いたかった。僕が学生の時にそこにお世話になって大変に良い宮司さんだった。夏に行ってましたから、ある時に宮司さんと一緒に朝ごはんをご馳走になっていたんですが、その氏子さんの方がね、今採れた桃だって言って桃を持ってきて下さったの。それは天津桃だって言う、ちょっととんがった桃で。それが素晴らしい香りで甘くてね。今までの自分の人生の中であんな美味しい食べ物を食べたこと無いって思う果物。そして、それをこの間取材してる時に行ったらなんと霊山町に桃畑がないんだよ。いっとき桑畑になったんだって。でも桑は絹織物ですよね。絹織物は中国に負けてしまって桑畑もやめてしまった。いま何も無いんですよ。ちょっと柿の畑があるぐらいで。でもそこに昔の事を良く知ってる方がいらして、天津桃っていうのは木で熟したらこれ以上うまいものは無いんだって、おっしゃったの。

  • 津田:(漫画の桃のひとコマが画面に写る)これがまさに桃なんですね。雁屋さんが食べて本当に美味しい桃を、海原雄山と奥さんの出会いに使ったんですね。

  • 雁屋:そうです。本当に美味しかったの。もうひとつは実際僕の体験なんだけど、桃っていうのはね、皆さん皮剥いて食べるでしょ。

  • 津田:そうですね。皮を剥いて。

  • 雁屋:違うんだよ。あれはね周りの和毛(にこげ)‭をきれいに洗って皮ごと食べると、皮の下の甘みが物凄いあるの。香りも甘みも。どうしてこんなに無駄なことしてきたんだろうと思うわけ。本当に美味しいんだよ。

  • 津田:それぐらい食に対しての強烈な原体験の場所でもあった。

  • 雁屋:そうです。そこをだからどうしても山岡の父親と母親の出会いの場所という。

  • 津田:そして雄山と士郎の歴史的和解の場面になった。そうなるとですね、読者としての興味なんですけど、福島のね、第一原発の事故があって、まあ要するに事故がなくても和解っていうのはこの霊山神社で行われたのか…

  • 雁屋:勿論。(事故は)関係なしです。て言うのは僕は他にも書いてますけども「全県味巡り」っていうシリーズをやってるんですよ。で、福島行きたかったんです。人によって色々趣味があるでしょ。美味しいものを先に食べるか、美味しいものを後に食べるか。僕はね、美味しいものは最後に残しておきたいんですよ。それで福島はとっておこうと思って。そろそろやろうかなと思ってたら事故が起こっちゃった。

  • 津田:じゃあ本当にストーリーラインとしては雁屋さんの中で和解はこの場所で、和解の理由も桃っていうのがあったんだけども、原発事故が起こってたので一緒に親子を和解するってなったんですね。これ、でも歴史の、なんかこの偶然というかね、こんなことになるとは全く予想されてなかったでしょう。

  • 雁屋:偶然ですというかねえ。悲しい偶然ですね。(こんなことになるとは)予想してなかった。

  • 津田:あの、僕ですね、実はこの『美味しんぼ「鼻血問題」に応える』の中でもね、雁屋さんの最後の方の主張としてやはり、福島の人もっと怒って欲しいって主張されていて

  • 雁屋:そう。そう。

  • 津田:実はですね僕もですね最近、東浩紀という評論家と一緒にですね、もっと僕は福島の原発事故で未だに避難している方も多いので怒るべきだっていう風にツイッターとかで書いたら、凄く炎上したんですよね。であった時にただ、なんで炎上するのか、福島の人なんかの話を聞くとやっぱり主語が大きすぎるんじゃないかって言われるんですね。つまり福島っていっても、会津もあれば中通りもあるしって言う中で、例えば雁屋さんがこの本で伝えられてた事って凄く、浜通りだったり本当に今でも苦しんでる人達の声じゃないですか。

  • 雁屋:それ良く分かります。

  • 津田:僕がちょっと思ったのはこれ例えばこれ「福島の真実」でなくて、「原発事故の真実」っていう名前だったりとか、例えば「福島には人が住めない、逃げる勇気を持って下さい」じゃなくて「避難区域の方々の厳しい現実をもっと…

  • 雁屋:いや、それを言っちゃったらいけなかったんですよ。何故かと言うと、そういう土地に限定してしまうと限定した土地の人にだけ行きます(手で攻撃のような身振りをして)

  • 津田:これはだから「福島の真実を知ってくれ」と言う風に言う事によって福島県民が全員当事者と。

  • 雁屋:全員に言ってくれって事です。そういう、ここが安全でここが安全じゃないとか言うべきじゃない。もちろん会津の方は、勿論線量が低いから比較的安全だと皆言うけれども、それでもやはり原発事故以前に比べると確実に線量は上がってるんですよ。だから、ここが安全でここが安全じゃないとか、それを僕は言うべきではないと思いました。

  • 津田:なるほど。あのですね、やはりこれ凄い複雑だなと思うのが、福島の方のお話を伺ってると凄く原発事故によって今も苦しんでいる、複雑な思いを抱えてる方もいらっしゃる中で、同時に早く忘れて欲しいって言う人もいる。両方の感情があるんですね。やっぱり復興を考えれば放射能は不安だけれども、でもまあそれと向き合って生きていくには早く忘れて欲しいっていう思いと、でもいつまで経っても忘れてほしくないという凄く二律背反した気持ちがあるっていう福島の方は多いし、それは多分鼻血問題の背景にもあると思うんですけれども、これは如何ですか。

  • 雁屋:ええと、それは多分、んー、若い人の事を考えた場合に、そうは行かないと思いますよ。さっきも言ったように「僕はもう年だからまあいいや」と言う人がいる。それからそう考える人達は原発による放射線の被害を、がんにだけ限定して捉えてるんです。

  • 津田:ああなるほど。

  • 雁屋:だからもうこれから先、がんが起こるとしても5年から10年だ。その時は僕はもう70超えてるからいいや。って思ってしまう。でもね、放射線の被害っていうのは、がんだけに限らない。人間の中の内臓全てに影響が出るんですよ。それが極めて明瞭に出ているのは、イラクでねアメリカ軍が劣化ウラン弾を使った。そこで劣化ウランってウラン285ですよ。あれはアルファ線しか出さないの。で、外部被害だったら問題ないんだけど、体内に入ると非常に強力なんですよ。ようするに臓器に影響がある、がんだけではない。そこを考えて欲しいんですね。

  • 津田:またあれですよね、農家の方々が凄く苦しみながら作っているって事をそこも含めて、やっぱり社会的な問題も、がん以外にも沢山あるって事ですよね。

  • 雁屋:がんだけじゃ無いっていう事、被害が。人間の臓器全てに影響があるんだって言う事。だから若い人もそうだし年取った人も関係ないやっていうのもダメなの。心筋に影響出てきますからね。そういう事もあるから、がんのことだけ考えれば50~60歳の人はいいやってそれは間違い。

  • 津田:これ最後に伺いたいのはですね、やっぱり雁屋さん表現者として、福島に強い愛情があることは凄く良く分かったんですが、ただ結果としてですね、今回この騒ぎになったことについて、福島に強い思いがあって「福島の方は逃げる勇気を持って下さい」という強い表現になった訳ですけども。それが結果的に福島のある種の方々を傷つけているという状況もある訳で、これについては。自分の表現が強かったことによって傷つけてしまったかもしれないという。

  • 雁屋:あのー、それで傷ついた人って言うのは、どういう人なのかなって考えます。実際にその人達に危険を危険であるよって事を忠告したんですよ。それで傷つくって理由が分からないです。なぜ。福島の土地が本当に危険なんだ、危険なんだよって言う事は福島の人たちを傷つける訳ですか。それ僕はあり得ないと思う。

  • 津田:それに関しては自分は自分なりに検証して取材して、仮説を持って提案したうえで忠告をしていると言う。

  • 雁屋:そう。そう。

  • 津田:これはまあ、受け止める方は受け止めて下さいという。

  • 雁屋:それでだから、(雁屋を)怒るって言う人の心理状況が僕には分からない。

  • 津田:という意味で言うと、この美味しんぼの上下巻で描いたことは表現としては間違ってないという。

  • 雁屋:間違ってる所もあるかもしれないけど、これは僕のその時の限界でしたね。

  • 津田:なるほど。最後になりますが、因みにこれ現在休載中なんですけれども再開は予定は決まってますか。

  • 雁屋:漫画家さんが体力が取り戻してくれれば。で、最後には、美味しんぼって元々楽しい漫画なんだよ。今度は最後はね、今までの登場人物総出で、どんちゃん騒いで楽しく騒いで、それで大団円という。

  • 津田:和解もしたことですしね。なるほど。

  • 下平:雁屋さん今日はお忙しい中ありがとうございました。