「専門家の意見は軽視され、知識の欠如を逞しくした想像力で補った専門外の自称「識者」による荒唐無稽なストーリーがメディアを賑わせ、実際に少なくない人々がそちらを信じた」

デマや不正確な情報が広がることに対するFlying Zebraさんの2015-6-29/30ツイまとめ。 あの時、そして今後、専門家がすべきことは何かを考えてしまいました。
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Flying Zebra @f_zebra

どんな分野でも専門家というのは完全無比な存在ではなく、間違えることもある。新たな事実が確認され、それまでの定説が覆ることだってある。だからといって専門家の言うことに意味がないわけではもちろんなく、非専門家よりは間違える可能性はずっと小さい。

2015-06-29 19:01:02
Flying Zebra @f_zebra

私たちの「感情」というのは合理的ではないので、特に信頼を裏切られたような結果になると、「もう彼らの言うことは何も信じられない」と感じてしまいがちだ。もちろん、実際には専門家が何かで間違えたとしても、その後の判断でまた間違える可能性は、やはり非専門家よりずっと小さい。

2015-06-29 19:01:22
Flying Zebra @f_zebra

個人レベルでは、例えば医療における治療方針の選択などで、専門家である別の医師のセカンドオピニオンを求めるのは合理的だが、「医者の言うことは信じられない」と標準医療を否定する自称治療者に頼ったりしてしまうと、高い確率で不幸な結末になる。

2015-06-29 19:01:42
Flying Zebra @f_zebra

その意味で、社会全体で専門家に対する信頼が失われると、当該分野での重大な判断において専門家の意見が軽視されることとなり、結果的に判断を誤る可能性が高まり、社会全体が不利益を被ることになる。少なくとも確率的にはその蓋然性が高くなる。

2015-06-29 19:01:57
Flying Zebra @f_zebra

ネット上の小さなコミュニティで流れる話題、あるいはマスメディアで取り上げられて多くの人の目に触れる話題の中には根拠の怪しいものや明らかなデマも少なくないが、大半は大きな関心を集めることもなくすぐに忘れ去られる。

2015-06-30 12:38:58
Flying Zebra @f_zebra

社会の関心を集める大きな話題となったものは、それが間違いやデマであれば訂正される機会も増える。デマを流すのは実にお手軽で、一方それを検証、訂正するのは非常に手間が掛かるという非対称性のためにデマがなくなることはないが、少なくとも反論を見つけることは可能なことが多い。

2015-06-30 12:39:37
Flying Zebra @f_zebra

大きな話題にならず専門家の目に触れる機会がなかったもの、あるいはあまりに荒唐無稽で反論する価値がないと判断されたものは訂正されることもなく、間違った情報だけが残ることになる。大勢に影響はないが、検索エンジンなどで選択的にそのトピックを集める人は判断を誤りやすい。

2015-06-30 12:40:49
Flying Zebra @f_zebra

偶然見つけた例では放射線の「スカイシャイン」か。今でも検索すると2013年頃の、まさに荒唐無稽としか言いようのない情報が大量にヒットする。放射線防護の専門家のほとんどは、この言葉が一部でこんな形で話題になっていたことすら知らないだろう。

2015-06-30 12:41:39
Flying Zebra @f_zebra

大きな話題となったものでも、評価と検証に時間が掛かるものはそれが終わる前に社会が関心を失ってしまい、仮説段階の結果的には間違っていた情報だけが人々の記憶に残り、検証された後の確定情報で更新されないままとなっているものもある。環境ホルモンやダイオキシンなどが代表的か。

2015-06-30 12:42:46
Flying Zebra @f_zebra

私自身の専門に関わる分野では、事故を起こした原子力プラント、具体的には1Fプラントで起きたこと、これから起きうることについて、社会の関心は高かったにも関わらず間違った情報が訂正されることもなく拡散されるのを歯痒い思いで眺めていた。2011年、2012年頃の話だ。

2015-06-30 12:43:40
Flying Zebra @f_zebra

当時、プラントの状態や事態の進展を正しく判断できる専門家はなぜ間違った情報を訂正しなかったのか。しなかったのではなく、できなかったのだ。原子力関係者の言論は封殺され、純粋に技術的な指摘すらもまともに取り上げられることはなかった。

2015-06-30 12:44:45
Flying Zebra @f_zebra

喉元過ぎれば何とやらで物事が明らかになってからの事後検証、反省をしたがらないという悪い癖も手伝って、現場検証が進んで当時は推測するしかなかった様々な事が明らかとなった今も、当時の誤った認識の多くは、個々人はともかく社会全体としては更新されていない。

2015-06-30 12:45:30
Flying Zebra @f_zebra

例えば地震動そのものが直接プラントに与えたダメージ。津波で電源が失われるまでに記録されたプラントパラメータから問題となるような損傷がなかったことは推測されていたが、杜撰な国会事故調が無理やり「可能性」を強調したために誤った認識が定着した。

2015-06-30 12:46:16
Flying Zebra @f_zebra

国会事故調の提言に従って設置された検討会で現地の検証や解析結果との突き合わせによる検証が行われ、結果的に国会事故調が「可能性」を指摘したシナリオは悉く否定された。中間報告書は昨年10月に公開されている。 nsr.go.jp/data/000069286…

2015-06-30 12:47:39
Flying Zebra @f_zebra

現在の新規制基準が極端に高い基準地震動を要求し、全体として地震対策に偏ったものとなっているのは、この結果的に間違っていた認識がベースとなっている。間違いが明らかになった今も、基準を見直そうという意見は聞かれない。合理的に安全性を追求するのであれば、当然考えるべきはずだが。

2015-06-30 12:48:54
Flying Zebra @f_zebra

もう一つ特徴的なのが、1F4号機の使用済燃料プールに対する「懸念」だ。今では全ての燃料の搬出が終わり、事故当時のプールや建屋全体の状態がどうであったかもほぼ明らかになっている。そもそも、本当に「心配」する必要があったのかどうかを見直そうという機運は、ない。

2015-06-30 12:49:58
Flying Zebra @f_zebra

低線量放射線被曝に対する過剰防護でも同じだが、「心配したけど何もなかったからまあいいじゃないか」で済ませてしまっては何度でも同じ過ちを繰り返す。リスクは常にトレードオフであり、対策に使えるリソースは有限なのだから、不必要な対策ははっきりと「有害」なのだ。

2015-06-30 12:50:56
Flying Zebra @f_zebra

1F4号機の使用済燃料プールについては、冷却能力にも建屋の健全性にも問題がなく、リスクとしては極めて小さいことは当時からはっきりと分かっていた。事実、何かあれば誰よりも困る当事者の東京電力も、原子力安全・保安院や後を継いだ規制庁も特段の心配はしていない。

2015-06-30 12:52:06
Flying Zebra @f_zebra

そうした専門家の意見は軽視され、知識の欠如を逞しくした想像力で補った専門外の自称「識者」による荒唐無稽なストーリーがメディアを賑わせ、実際に少なくない人々がそちらを信じた。限られた情報の中でも、どちらがより合理的かは明らかだったにも関わらず。

2015-06-30 12:53:43
Flying Zebra @f_zebra

マスメディアの無理解には今更驚かないが、私にとってショッキングだったのは個人的に信頼していた物理学を初めとする他分野の専門家、専門外についても得られた情報の中で合理的な判断ができるはずの人々が、デマの方に流されがちであったことだ。つまり、情報があまりに偏っていた。

2015-06-30 12:55:16
Flying Zebra @f_zebra

私が2012年頃から細々と原子力について言及し始めたのは、判断力があるはずの人々が正しい判断をするための材料、受け取った人が自分で検証可能な情報を提供したいという動機による物だ。一介の技術者に過ぎないこんな匿名アカウントでも、当時は恐る恐るだった。

2015-06-30 12:56:30
Flying Zebra @f_zebra

特定の意見を持ちそれを表明する人、特定の職場に属する人に対する職場への嫌がらせ、家族への危害などが当時は現実的な脅威だった。言論封殺を現場で実行するのは「善良な市民」であることを思い知らされた、ある意味非常に興味深い経験だった。

2015-06-30 12:57:50