このクソ暑い日にあなたの力を借りたい#2 彼を呼ぶ声◆2
_アルコフリバスは、壁をまるでモグラのように掘って転移してきたようだ。煉瓦の壁が綺麗にくりぬかれている。高速転移の余波でそうなったと思われるが、探知が苦手なはずの彼がどうやって自分を見つけたかメアレディは分からなかった。 「どうしてここが!?」 41
2016-05-03 16:20:25_周りを取り囲む盗賊ギルドの男たちは、手にした拳銃で銃弾を浴びせる。それらは全て強力な飛来物防護の壁に阻まれ、あるものは慣性を失い落下し、あるものは弾かれて壁や天井にめり込んだ。 「探知得意じゃないはずでしょ……嘘ついていたの?」 「嘘ではない。苦手なのは本当だ」 42
2016-05-03 16:25:04_飛来物防護の魔法を使ったのはメアレディではない。蜂の巣になるほどの無数の銃弾を防ぐなど、並大抵の技量では不可能だ。恐ろしい魔力を感じる。アルコフリバスから! 「ワシは探偵を雇ったんだよ。探知専門の彼らならお前の足取りを辿るなど簡単なこと。そんなの、電信一本の労力だ」 43
2016-05-03 16:30:45_メアレディは唖然となる。確かに探知を専門とする探偵なら、彼女の追跡と情報入手程度なら朝飯前だろう。クライアントの心拍数と脳内物質を探知し、見えないところで状況を把握する手法をよく知っていた。 「ワシは得意なものなら全部自分でやるが、苦手なものは……プロに頼むんだよ」 44
2016-05-03 16:36:43_アルコフリバスの反撃が始まった。すでに盗賊ギルドの男たちは彼の魔方陣に捕らわれている。床に赤い熱線が走り、それに触れたものが次々と火柱に包まれる。 熱線は縦横無尽に走り、その安全地帯はあっという間に小さくなっていく。覚悟したのか、無謀にも突っ込み、火だるまになる男たち。 45
2016-05-03 16:41:06_メアレディは安堵の息をはいた。 「……あなたの報酬は道具一つでしょ。こんな余計な出費を……」 「クソ女が。金を惜しんで女子を危険にさらす馬鹿がおるか。そもそも探偵を雇うべきなのはそっちの方じゃないか?」 46
2016-05-03 16:46:32_どきっとするメアレディ。探偵を雇うべきだった。確かに。アルコフリバスは彼女が探偵を雇う気配がないので、自腹を切ったのだ。 「すみませんでした」 「社交界じゃやり手のようだが、裏社会じゃまだまだ小娘だな、ハハハ」 47
2016-05-03 16:50:58_すでに盗賊ギルドの男たちは全員灰になっていた。熱線は瞬時に消え、アルコフリバスはゆっくりと歩いていく。 「他の部屋も制圧するぞ。お前はウィルスの確認を。まだ『危険を排除した』行為に過ぎないからな。『徹底的にやる』証拠を掴んだ方がいい」 48
2016-05-03 16:55:39_程なくしてレインクラウド・ファミリー・ギルドのアジトは壊滅した。ギルドの指導者は下っ端が勝手にやったことと切り捨て、以降は自重するようになった。 盗賊ギルドは帝都の影に無数に存在し、非合法な商売で権力をかき集める。今回の事件だってそうだ。 49
2016-05-03 17:00:35_感染した蚊は他のテロリストに売却する予定だったことも分かった。潰したのは別に正義のためでも何でもなく、大きな金が動くからだ。それは盗賊ギルド間の秩序を乱す行為。出る杭は打たれる。 そうやって、帝都の影は波一つたたずに今日も横たわるのだ。 50
2016-05-03 17:05:37【用語解説】 【拳銃】 銃器自体は先の科学文明に生まれたが、それが滅亡し、魔法文明が始まったことによって奇妙な進化を遂げた。まず実包を作製する技術が失われ、残った銃をどうするか考えた結果、鉄の弾を魔法で加速させることを思いつく。魔法使いでなくともインプラント手術で扱えるようになる
2016-05-04 16:37:34