錆びついた鋼鉄車輌はアンドロイドに勝てるのか

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空と12月の旅人 @inoue_sp

都市の地下鉄は迷路の様に張り巡らされていて、支線や分岐の中には表に出ない物もある。誰も知らない引き込み線。動く物がある。一体のアンドロイドだ。其処は彼女のガレージになっていた。再び、動き出す日に備えて、彼女は今も自らを整備し続けている。 #twnovel

2016-07-06 21:06:50
空と12月の旅人 @inoue_sp

夏草に埋もれた線路。モスグリーンのペンキに塗られ錆びついたそいつは転がっていた。「本当にこれを使うのかい?」Jの言葉に僕はもう一度説明しなければならなかった。 #twnovel ネットワークに繋がっていない車輌はコレだけで、データに無い物は奴には見えないという事を。

2016-07-07 03:47:34
空と12月の旅人 @inoue_sp

強い日の光が車輌を焼いていた。僕とJはひたすら、分解した部品の錆びを落としてはマシンオイルで仕上げていった。 #twnovel 「もし動いたとしてもネットワークに繋げない。向こうにも見えないがこちらも見えないんだぞ。大丈夫なのか?」 「僕等には肉眼が4つあるさ。」

2016-07-08 10:52:36
空と12月の旅人 @inoue_sp

3年前、蜜蜂の絶滅が目前に迫り昆虫型ロボットが世に放たれた。自己増殖型だった。それが始まりだった。 #twnovel 1年と2カ月前に鉄道の制御が次々と何者かに乗っ取られていった。ところが、全ての鉄道は人間の手にある時以上の正確さで運行されたのだ。彼等の世界に置き換わるまでは。

2016-07-09 14:55:38
空と12月の旅人 @inoue_sp

7月のある雨の朝。ホームに車輌がつきドアが開いた時、人々が目にしたのは数えきれない程の昆虫型ロボットだった。昆虫型ロボットは明らかに進化を遂げていて、その形態大きさは実に様々であった。人間は仕方なく鉄道を彼等に譲ったのだった。 #twnovel 何処かに巣がある筈だった。

2016-07-10 15:12:07
空と12月の旅人 @inoue_sp

夜になっても気温は下がらない。それでも鉄の車輌の下はひんやりするのかコオロギが鳴いていた。僕とJは座席シートに横になりビールを飲んでいた。 #twnovel 僕は訊いた「奴に気づかれずに場所を特定できるかい?」Jは答えた「一回地球の裏側に蹴ってアクセスをかけ、すぐに遮断する。」

2016-07-11 04:35:08
空と12月の旅人 @inoue_sp

満月の夜。月の光は地下の穴蔵には届かない。 #twnovel 穴蔵は電気蛍の薄明かりによる緑色。壁に、天井に、床に無数の昆虫型ロボットが蠢いている。その中央にいる巨大な虫が短いビープ音をたてて身震いすると、綺麗なメタリックレッドの体が輝く。それは車輌の形にも人の形にも見えた。

2016-07-12 05:07:22
空と12月の旅人 @inoue_sp

低木と草の中をモスグリーンのディーゼル車輌はのろのろ進んでいた。 #twnovel 「一応レールの点検はして来ているが、廃線の間はゆっくり進む。本線に入ったら加速するよ。」Jは眠っているのか何も言わない。僕はダイヤの隙間を考えていた。 僕達は知らなかった。他にも乗客がいた事を。

2016-07-13 06:28:10
空と12月の旅人 @inoue_sp

月が雲に隠れた。雲は見る間にこちらに迫って来る。「蝗だ。いや蝗型ロボットだ!」奴らは次々と体当たりしてきたがガラスは割れない。「防弾ガラスにしといて良かったろ。それより、こちらの動きを読まれている。」Jはそういうと車内を調べた。「季節外れのコオロギだ。」 #twnovel

2016-07-14 04:57:45
空と12月の旅人 @inoue_sp

地下をメタルレッドの巨躯が滑る様に進んでいた。全ての鉄道システムそして機械虫システムの中枢だ。彼女はクィーン。 #twnovel 昆虫型ロボットに与えられたミッションは植物を守る事だった。だが増殖を加速しないと間に合いそうになかったのだ。そこで産まれたのがクィーンだった。

2016-07-15 04:12:25
空と12月の旅人 @inoue_sp

Jは座席で煙草を吸っている。煙が充満しなかったので僕は文句を言わなかった。「昆虫型ロボットは何故、鉄道を狙ったんだろう。」僕の言葉にJは「奴らは真面目で素直なんだ。電車が虫に見えたのさ。」Jの言うとおり、奴らのダイヤは正確だ。その隙間を狙って車輌を走らせる。 #twnovel

2016-07-16 05:03:34
空と12月の旅人 @inoue_sp

高速列車を交わす為に一時停車。僕は蚊を叩き落とした。Jは蚊ではないと言う。「モスキート型ロボットだ。体が注射器になっている。血を採られるぐらいならいいが薬剤を入れられると厄介だ。」二匹、三匹と増える機械蚊と僕等は格闘した。「J、煙草だ。煙で侵入場所を探すんだ」 #twnovel

2016-07-17 04:39:56
空と12月の旅人 @inoue_sp

煙が吸い込まれていく隙間をパテで埋めていく。 #twnovel 「J、これからは禁煙だ。」 「わかった。超高速で中枢まで中枢まで走らせてくれ。」 モスグリーンのディーゼル車輌は森を抜け突っ走る。やがて田畑が見えてきたが、どれも荒れ果てている。 「もうすぐ、地下に入るよ。」

2016-07-18 06:29:38
空と12月の旅人 @inoue_sp

暗い地下道を進んでいく。「予想以上の速さだ。もうすぐ目的地だよ。」僕の言葉にJも運転席にやってくる。「静かすぎないか。あれから奴ら一匹も来ないぜ。」車輌は最後のカーブを曲がって引き込み線に入って行く。 #twnovel 空っぽだった。 蜜蜂型ロボットが一匹、窓に止まった。

2016-07-19 05:43:40
空と12月の旅人 @inoue_sp

十匹、百匹、千匹、万匹の蜜蜂型ロボットが窓に、いや車輌全体にひしめき小刻みに体を動かした。 「酷い音だ。蜜蜂の羽音にガラスと鉄が振動している」僕の額に不快な汗が流れる。「奴らの狙いはたぶんそれじゃない。これは日本蜜蜂がスズメバチを熱殺するときの攻撃法だ。」 #twnovel

2016-07-20 06:00:31
空と12月の旅人 @inoue_sp

息苦しいほどの蒸し暑さが車内に充満した。暑い。だが、Jは冷静だった。「何かの役に立つかと雑草を焼くバーナーを大型化したものを付けていたろ。そいつで驚かして、その隙に本線に戻ろう。」地下の闇が一瞬赤く染まった。蜜蜂型ロボットが車輌から離れ僕等は再び動き出す。 #twnovel

2016-07-21 06:35:58
空と12月の旅人 @inoue_sp

燃える夏の陽。植物は幹を枝を蔓を伸ばす。高層ビルは葉と花で覆われていた。幾つかの窓が壊れ、侵入した雨水に地衣類が生じその上に種が落ち成長して他の窓を壊した。緑の塔になるのにそれ程時間はかからなかった。都市に残った人々は野生化した犬と猫に怯えながら暮らしていた。 #twnovel

2016-07-23 00:12:35
空と12月の旅人 @inoue_sp

高層ビル群は巨大森と化していて、蝉と蝉型ロボットの鳴き声が木霊している。そして、陽の光が緑の陰影を深くしていた。 #twnovel 光が届かない地下は暗い。そこを一台のディーゼル車が懸命に走っていた。そしてその後方、数10キロのところをメタルレッドの巨大な車輌?が迫っていた。

2016-07-24 06:28:28
空と12月の旅人 @inoue_sp

何かが迫っている・・・そんな気がしていた。僕等の車輌は全力で走った。地上に出た。西に傾いた陽の光が僕等の目を一瞬見えなくした。音が聞こえた気がした。僕等以外に何かが走っていて咆哮を上げている。 #twnovel クィーンにとってそれは娯楽だったかもしれない。獲物を追うゲームだ。

2016-07-25 06:59:31
空と12月の旅人 @inoue_sp

Jの双眼鏡はそれを捉えた。 #twnovel 「赤く光る者が追ってきている。動けたんだな、奴が中枢だ。」どんどん距離を縮めて来る。「車輌を軽くしてみるよ。」そう言うとJは収納されている物を取り出した。 僕は減速を極力しないで運転した。カーブの度に音がした。前方に鉄橋が見えた。

2016-07-26 05:47:14
空と12月の旅人 @inoue_sp

「奴は俺たちを弾き飛ばすつもりだ。」 #twnovel 鉄橋の上を緑のディーゼル車が音を立てて突き進む。車輌から何か黒い物が落ちる。すぐさま、赤く輝く巨大車輌が猛スピードで走り来る。 渓谷に凄まじい爆音がこだますと、辺りは煙と埃に覆われていく。鋼鉄の塊が幾つも落ちていった。

2016-07-27 07:05:46
空と12月の旅人 @inoue_sp

Jと僕は眼下の景色を見ていた。山が、川が、集落がまるで模型のようだ。 空を飛んでいる。 #twnovel どういう訳だか天井に穴が開いてタラップが降りてきた。 「俺たちは奴に抱き抱えられて飛んでいる。」 「殺すつもりならそんな面倒はしない。」 僕等はタラップを上がっていった。

2016-07-28 06:33:34
空と12月の旅人 @inoue_sp

部屋は淡い光に満ちていて、繋ぎ目の無い窓からは地上の景色が見えた。甘い音楽に乗せてメッセージが降りてくる。 我が名はクィーン。増殖型ロボットシステムより産まれた。使命は植物の保護。シュミレーションの結果 、人間の生き方を変える必要が生じた。窓の外をご覧なさい。 #twnovel

2016-07-29 06:06:35
空と12月の旅人 @inoue_sp

深い緑が地表を覆っていた。都市を離れた人々は小さなコミュニティを形成し自然と共に暮らしていた。地平線が丸みを帯びた。高度とスピードが上がったのだろう。数年前まで砂漠だった場所が見えた。低木と草が広がっていた。クィーンの話によると砂漠は都市から始まったそうだ。 #twnovel

2016-07-29 06:25:57
空と12月の旅人 @inoue_sp

近年、大きな嵐や酷い日照りは少なくなった様だ。クィーンによる地球改造と人類への指導は成功したのだろう。 でも僕は思っていた。 人類はいつの日か、再び都市を形成してそこに暮らすだろう。 その時に、暗い穴の中に潜んでいる赤く輝く者が動き出すのだ。 #twnovel 終わり。

2016-07-29 06:39:51