ついに動画も飛ばす時代が来たか…「今年の新語2022」大賞は「タイパ」!選考発表会レポ

今年の新語、あなたはいくつ知っていましたか?
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国語辞書のトップメーカー・三省堂による「今年の新語2022」の選考発表会が、2021年11月30日に東京カルチャーカルチャーにて行われた。

今年スポットを浴びた新語の中から、TOP10に選ばれたのはこちら。

大賞  タイパ

第2位 ○○構文

第3位 きまず

第4位 メタバース

第5位 ○○くない

第6位 ガクチカ

第7位 一生

第8位 酷暑日

第9位 闇落ち

第10位 リスキリング

「あーこの言葉ね!」とひと目で納得のいくものもあれば、「なぜこの言葉が…?」「初耳だけど、そんなに流行ってた?」といった反応もあるのではないか。この感想の揺れにこそ「今年の新語」の面白さがある。

Togetterオリジナル記事編集部は今年も選考発表会に参加し、リアルタイムで発表の様子を見てきた。言葉のプロフェッショナルによる興味深い選定理由をご紹介する。

「今年の新語」とは

「今年の新語」は、一般人から「その年によく聞いた、よく見た言葉」を募り、集まった候補の中から辞書を編む専門家が選んだ新語トップ10を発表する企画。

2022年の応募総数は1,041通で、被りを除いて673語の新語候補が集まった。

「今年の新語」のポイントは

一時的に爆発的に流行して、その後すぐ忘れ去られる流行語ではなく「将来辞書に収録される可能性がある日本語」を選び、日本語の変化をいち早く捉えること

にある。

「今後も日本語として定着する期待が高いかどうか」という基準に重きを置いて、毎年辞書の編者たちによる「秘めたる思い」がドロドロ渦巻く議論の末に選ばれている(らしい)。

タイパの略し方は「パリーグ」以来…?

選考発表会には『三省堂現代新国語辞典』編集主幹の小野正弘先生、『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明先生、『大辞林』編集部山本康一編集長、『新明解国語辞典』編集部の荻野真友子さんが登壇した。進行役は『デイリーポータルZ』の古賀及子さん。(以下、敬称略)

右から飯間先生、小野先生、山本編集長、荻野さん、古賀さん

まずは今年の大賞に選ばれた「タイパ」の選定理由と、日本語的特筆すべきポイントを見ていこう。

「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」の略語。三省堂を代表する四辞典による語釈がこちら。


大賞の発表を聞いたとき、筆者は正直「タイパ」という言葉にピンとこなかった。なるほど、今年特に話題になったファスト映画などの流れも受けた言葉だったのか。

登壇者の皆さんによる日本語的解説を知ると、タイパが非常に興味深い背景から成立した言葉であることが見えてくる。

小野:タイパは、言語学的には極めて不透明と言えます。「パ」だけで「パフォーマンス」の意味を示すとは。

もともと「コスパ」という言葉があって、その派生で「タイパ」が生まれたのは間違いありません。ただ、「パ」が「パフォーマンス」を示すとわかるのは「コスパ」の存在があるからであって、(タイパという言葉の字面だけでは)すぐには意味が透けてこない。不透明であるということが面白いポイントですね。

飯間:これだけ長い言葉を一文字で略すのは「パリーグ」以来かもしれないですね。「パ」だけでパシフィックの意味を示すという

そのほかの例でいうと「サービス」を「サ」だけで略す言葉を思い浮かべました。サービス終了で「サ終」、税・サービス込みで「税サ込」など。

言葉の成立の面白さだけでなく、「タイパ」が認知されるに至った社会的背景も見逃せない。

飯間:タイパと聞くと、特に映像作品を飛ばしてみる行為に紐づくことが多いですが「動画を飛ばしてみる時代になったんだなぁ」という驚きも大きかったです。

映像作品は本来じっくり鑑賞するものですが、たとえば「友人との話題についていくためにネットもドラマも映画もたくさん観なきゃいけない」といった理由で飛ばしてみるわけですね。

ひと昔前はこれを文章や本でやっていました。いわゆる「速読」です。かつては多くの人が本を読んでいたから、たくさんあるコンテンツを飛ばし読みすることが流行ったのです。本を読む人が少なくなった時代になり、今度は動画に飛ばす行為が及んだと。

また、大辞林の語釈にもありますが、タイパが「ファスト映画」のような犯罪行為にも及ぶ事例まで出ているのも興味深いです。

実際に、ちょうど選考会に近いタイミングで「ファスト映画」を公開した人に対する賠償を命じた裁判のニュースが取り上げられ、選考委員の皆さんは改めて「タイパ」の時事性を確信したのだとか。

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