【R18G】怪我をした妖精さんを拾ったよ【絵付SS】

龍のな@動物保護チャリティ作品集主催 @ry_nona

【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 052】 メスの刃に沿って赤く血が染み出す。 押し当てるだけでは切れない。メスを引く。鮮血が文字通り溢れ出して、指先が暖かく濡れる。どんどん大きくなる妖精さんの悲鳴を脳から締め出して、意識しないことに努めながら、僕はメスを大きく揺らした。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 053】 指先に伝わる硬いものの感触。だけど妖精さんの体の中の骨なんて大した太さでもない。すぐに、ごきり、と鈍い感触が伝わる。 甲高かった妖精さんの声が濁った。 ――僕の右手には、血に濡れたメス。 左手には、切り離された妖精さんの腕――

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 054】 気を失うことが出来れば楽だったのだろうに、それも出来なかったようだ。妖精さんは両方のほっぺたを血と涙で濡らして、こっちを見ていた。濡れた目が僕を責めている気がして、僕はつい目を逸らした。 pic.twitter.com/7ZuNl6rNku

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 055】 妖精さんの、傷口を庇うように押し当てられた手のひら。指の隙間からは血が流れ続けている。妖精さんの体を覆うタオルにも、ぽたぽたと落ちる血がだいぶ染み込んでいる。早く止血をしなければ、それこそ死んでしまう。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 056】 スイッチを入れられて暖められたはんだごては、すでに肉を焼けるほどに熱くなっていた。 ごめん。 小さく呟いて、でもそれ以上の断りを入れることなく、僕は妖精さんの体を押さえつけて、はんだごてを傷口に押し当てた。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 057】 掠れた声で、でも大きな悲鳴が上がる。 無茶苦茶に暴れる身体を押さえつけて、血が止まるまで、僕は何度も何度も何度も何度も、傷口を焼いた。 pic.twitter.com/aLsv7bqpLg

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 058】 肉の焼けた嫌な臭いの充満した部屋で、僕は妖精さんのベッドのタオルを新しいものに敷き直し、力の入らなくなった身体にタオルをかけ直していた。 焼かれて黒ずんだ傷口に化膿止めの薬を塗り、包帯を巻いてる間にも、彼女はピクリとも動かなかった。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 059】 何度目かになる、妖精さんの呼吸を確かめる行為をして、僕は息をついた。 僕の両手も、妖精さんの爪であちこち引っかき傷ができていた。妖精さんの痛みの何千分の一にも満たない傷だけど、少しだけ、妖精さんの痛みを引き受けられた気がした。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 060】 乱暴な治療のせいか、妖精さんはひどい熱を出した。 熱で何もわからなくなっているのか、妖精さんは、ひたすら呪詛のようなうわ言を漏らし続けていた。何を言っているのかわからないのは幸福だったのかもしれない。それは僕への呪みかもしれないから。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 061】 ―――― …引き攣れたように背中が痛むことに気がついたのは、二週間前のことだった―― 最初はあまり気にしてなかった。でも痛みはどんどん酷くなっていって。やがてその痛みが、背中ではなくて、羽根が原因だと気づいた。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 062】 おかあさんは私を閉じ込めた。それはおかあさんの優しさ。私が、村中の人たちに石を投げられて死んだおばさんみたいにならないように、ひどい目に会わないためにするための、優しさ。 …ううん、優しさなのかな。わからないや。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 063】 なんでこんなことになっちゃったんだろ？　もう何日もおひさまを見てない。友達にも会ってない。そろそろ、私が外に出てこないことを、村の人たちが不思議がってきているのかもしれない。 …いやだ、私、死にたくない…、死にたくないよ。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 064】 私の投げたあの石は、おばさんに当たったんだろうか。目をつぶって投げたからわからないけど。嫌な音がしてた。 おばさんが怒ってるのかな。 …死にたくない。死にたくないよ。助けて… ―――― pic.twitter.com/4vAOIHOs3I

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 065】 数日眠り続けた妖精さんが目を覚ました頃には、もう熱も下がって、傷の状態も落ち着き始めていたけど… 目を覚ました妖精さんは、ずっと泣き続けていた。唯一自由になる右手で、ずっと目をこすって。 僕はまた、なにもしてあげることができなかった。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 066】 やっと物が食べられるようになった妖精さんに、少しずつ食べ物を作る。 前と同じように、とろとろの野菜スープ。スープが煮えるまで、果物をすりおろして果汁でゼリーを作る。ゼリーを冷蔵庫で冷やしている間に、粉を計ってパンを捏ねた。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 067】 こんな風に真面目に料理をするなんて久しぶりだった。 僕が怪我をしてこのアパートに引っ越してきてから、初めてなんじゃないだろうか？ パンやお菓子なんて作り慣れてないから、レシピ本をいくつも買ってきた。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 068】 得意じゃない料理に悪戦苦闘するのも、僕は楽しかった。 ずっと暗い顔ばかりの妖精さんだったけど、レシピ本のカラフルなお菓子の写真を見せたら、少しだけ笑ってくれたから…。 今は、久しぶりにわくわくした顔で、僕を待っている。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 069】 妖精さんは、甘いゼリーが気に入ったようだった。 食欲はまだあまりない様子だったけど、ひんやりとしたゼリーは食べやすいのだろう。今まで食べたことのない甘い食べ物に、すっかり心を奪われた様子だった。 笑顔で僕に、アリガトウと伝えてくれた。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 070】 僕は妖精さんを笑顔にしたくて、いろんなお菓子を作った。 それ以外の時間は、二人でゆっくり過ごした。 絵本なんかを広げて、イラストを指して、人間語と妖精語を教え合ったりして…。 pic.twitter.com/JYAPxvmp9x

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 071】 …だけど、妖精さんは毎晩のようにうなされていた。なんの夢を見ているのか…。 眠るのが怖いのか、空が暗くなり始めた頃から、表情もつられるように暗くなる。 僕は努めて明るく振る舞った。少しでも楽にしてやりたかった。 …だけど…。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 072】 少しずつ体力も戻り、傷口に当てていたガーゼも汚れなくなり、そろそろ包帯もいらなくなるね、なんて話していた頃。 …妖精さんは窓から飛び降りた。 事故じゃない。僕はその瞬間を見ていたから。 換気のために細く開けた窓から、身を――

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 073】 手入れされずに伸び放題のままになってた芝生に落ちたおかげで、軽い怪我で済んだ。 小枝に引っかかって羽根に穴が空き、小石にぶつかったらしい肩は切れていたけど。 命に別状はなかった。 pic.twitter.com/z41fVmQbbw

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 074】 必死に部屋を飛び出して妖精さんを拾い上げた僕に、脳震盪でぼんやりした目のまま、妖精さんは「ゴメンナサイ」と繰り返した。 すぐに血も止まるような傷だったし、すぐに妖精さんも目を覚ました。 だけど僕は、ショックで震えが止まらなかった。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 075】 なんで飛び降りたのかは僕は尋ねなかった。僕に責められてるようには感じて欲しくなかったから。 ただ、窓を換気に開けることは辞めることにした。…そろそろ、開け放したままだと寒い季節になってきていたから。2階とはいえ、防犯もしないとね…。