- megamarsun
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「みんな去っていきました。あなたも多分どこかに行ってしまうのです。それなら、もう期待しない方がいいんです」「自分はどこへも行きません。お嬢様の許可が頂けるのであれば、ですが……」
2015-12-16 20:57:26「許可ってあなた、そもそも社員でもなんでもないんでしょ? それにわたしはパパの娘であって、あなたの雇い主でもなんでもありません」「それでも、お嬢様の力になりたいのです」男は真剣なまなざしで言った。
2015-12-16 20:57:41「しつこいですね。わたしの境遇が哀れで同情してるならやめてください。人の情なんて何の価値もありません。天宮システムのブランドがあったからこそ、多くの人が会社のために働いてくれていたんです。その証拠に、会社がなくなれば、みんな去っていきました。
2015-12-16 20:57:59それにわたし、相手の目を見れば、何となくわかるんです。昔から相手の考えてることが……どうせあなたも……」そう言いながら、天宮翼は男の目を見たが、それは余りにも純粋なまなざしであり、逆に恥ずかしくなって男から目をそらす。そして、しばらく、だまって弁当を食べ続けた。
2015-12-16 20:58:25数分の沈黙が続いた後に、天宮翼は突然食べかけの弁当を床において立ち上がると、鷹のように肩を怒らせて腕を組んで男の正面に立った。「そもそも、力になるったって、あなたになにが、できるんですか。半額セールの弁当を買うくらいのことなら自分でできます。
2015-12-16 20:58:51こう見えても、一人でできないことなんか、ありません! お金だって……」と言いかけて、天宮翼は自分が会社の債務整理担当から最後に渡された現金を持っていることを思い出した。
2015-12-16 20:59:05しばらく、斜め上を見ながらなにかを考えるようなしぐさをした後に、ひなにエサを与える親鳥のように、突然財布からお金をすべて取り出して男に差し出した。その二十万円は天宮翼が持つことをゆるされた全財産だった。
2015-12-16 20:59:18「お代は結構ですよ。しかも弁当は半額の二百五十円ですよ。庶民の弁当はそんなに高額ではありませんよ……」「あなたはウツケモノですか! それくらいわたしでも知ってます! ちがいます。これは契約金と言うか……つ、つまり、お給料です! 同情なんかまっぴらごめんです。いいですか――」
2015-12-16 20:59:39天宮翼は一呼吸おいてから叫ぶように言った。「わたしは今から社長になります! あなたには最初の社員になってほしい! い、嫌ならもうわたしには今後一切関わらないでくださいっ!」天宮翼は後先考え無しに、全財産を差し出している自分自身に驚いていた。
2015-12-16 20:59:54自分でもなぜそんなことを突然考えて言葉にしたか理解できなかった。好条件だった天宮システム全盛期においても社員にならなかった男が、今更社員になるはずもないのだ。本当のウツケモノはむしろ自分ではないのかと天宮翼は思った。 助けてくれるかもしれない相手に何て上から目線の物言いだろうか。
2015-12-16 21:00:16やなやつ!やなやつ!そもそも高校生が社長になれるのだろうか。そんなの無理に決まってるよ!無一文の女子高生が社長をする会社の社員に誰が好き好んでなると言うのだ。そんなやつ、いないよ!まだ会社設立もしてないのに、なぜ先に給料をはらっているのだ。明日の生活費はどうするの?
2015-12-16 21:00:26何だか取りようによっては愛の告白みたいではないか。恥ずかしいやつ!だとすれば、これは典型的な、振られるパターンのやつだ。御愁傷様でした!
2015-12-16 21:00:39頭の中でいろいろな言葉が永久機関のようにぐるぐると回り続ける。その給料をにぎった小さな手は、傷ついた小鳥のように小さく震えていた。 pub.fundee.in/projects/view/… PDF、Kindleはこちらで公開中です!
2015-12-16 21:00:46