稲川淳二のつぶやき怪談　2016年6月28日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

この土地の人って、名字を言うと、年と誰か判るんです。 どこどこにいる、誰って。 これは、凄い事ですよね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「土田のまさおがよ、あれは、お前、実はな…」 って言うんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

聞いてると、この人の友達に土田さんという人がいるんですが、 その土田さんという人のお友達のＡさんの話なんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ａさんは夜中に、誰かが迎えに来たんで、 「おーい、これからちょっとなぁ、 水路に繋いである釣り舟、様子見て来るわ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

って言って、大雨が降る中、出掛けて行っちゃったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

だから家の人間は、 『ああ言ったから、すぐ帰って来るな』 って思ってたら、その日はもう行ったまま帰って来なかったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

実はこの日、土田さんは、Ａさんと夜釣りに行く筈だったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが大雨だったものだから、中止してたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

翌朝、土田さんはＡさんが家に帰っていない事を知ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ａさんの家の人間も、 「あれぇ、どうしたんだろう、これ、帰って来てねぇぞ」 そうして、慌てて皆で水路に行ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

水路に行ってみたら、繋いであった舟が無いんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あれ、どうしたんだ？　これおかしいな」 という事で、皆で捜したんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

捜してみたら、水路からちょっと出た所、湖の上に舟が、 ゆーらゆーら、 波に揺れて漂っている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

舟はカラで、中にＡさんはいなかったって言うんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「えー、これどうしたんだろう？」って事で、 慌てて駐在所と村の組合とに連絡して、皆で捜したんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、とうとうＡさんは見つからなかったんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

一体、誰が夜、Ａさんを迎えに来たのかって調べたんですが、 彼を迎えに行った人間は一人もいないっていう事が判ったんです…。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

結局、雨はその後も何日か降り続いたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

雨が上がったある日、今度は土田さんが、別の釣り仲間と、 「おい、夜釣り行こうや」 って出掛けたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

自分のちいちゃな釣り用の小舟で、船外機を付けて、 ブーーーン、 と行ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

湖に着いた時には、辺りはまーっ暗でした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

小さい灯りを点けて、 「じゃぁ、お前、この辺りでもって釣るか」 そうして釣り糸を垂らしたんですが、これが一向に釣れないんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

たまに釣れても、これが、雑魚ばかりで。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「おい、駄目だな今日。 これじゃ、もうしょうがねぇから引き上げようか」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

って話になって、 「そうだな、そうすっか」 って、またモーターを、