THE STRIKER 「ストライカー 〜最後のソルジャー〜」

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BRAKKA！BRAKKA！共和国軍車両のフロントガラスが破砕し、ドライバーが脳天を撃ち抜かれて死亡、車体はスピンしながら後方へフェードアウトする。激しい悪路の不安定な状況下で、ヘンドリクスの照準がぶれる事は少しも無い。強靭な筋肉が、完璧に身体をコントロールせしめているのだ。22

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ピンチは更なるピンチを呼ぶだけだ」撃ち殺しながらヘンドリクスが叫んだ。KABOOM！更に一台、追跡車両のガソリンタンクを銃弾が撃ち抜き、爆発させた。「やってくれたな。俺は映画の撮影に来ただけだ。こんなパワー・ゲームに付き合うつもりはない！」「ゲームじゃないわ。すぐにわかる」23

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「大佐に伝えろ」ヘンドリクスはナタリーが投げ渡したグレネードのピンを歯で抜くと、後続の共和国軍車両に投げつけた。KABOOOOM！そしてナタリーを睨みつけた。「……俺はあんたに協力するつもりは無いとな！」「これから訪れる村の状況を見ても、同じことが言えるのならね」「何だと？」24

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

_____________ 25

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キャベツ畑を抜けて小村近くにジープを停めた二人は、すでにそこが軍によって包囲封鎖されていることを知った。彼らは匍匐前進で物陰へ進む。「見て」ナタリーが双眼鏡を手渡す。「村人を吊るし上げてるのか？一体なにが？」「理由なんて無い。この村が旧政権、親合衆国大統領を支持してたからよ」26

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

哀れな少女の悲鳴までも聞こえてくる。「腐ってやがる……」ヘンドリクスの手で双眼鏡が軋む。ナタリーが受け取り、再び偵察を行う。「メレンキャンプを止めなければ、欧州全土がヘルゴニアと同じ道を。それだけじゃない、核ミサイルがホワイトハウスを照準に……エッ！」ナタリーは目を剥いた。　27

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女は目を疑った。なぜならヘンドリクスはもはや彼女の隣にはおらず、双眼鏡の視界内に出現したからだ。BRATATATA！BRATATATA！両手それぞれにアサルトライフルを構え、激しいマズルフラッシュとともに共和国軍兵を銃撃しながら、ヘンドリクスは悪夢じみた吊るし木に近づいた。28

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんてことを！」あれが最強戦士ザ・ストライカーの強さだというのか。だがナタリーもまた真の戦士。我に返り、双眼鏡からスナイパーライフルに持ち替えて、スコープを覗き込んだ。BRAKKA！BRAKKA！ヘンドリクスは家々から飛び出してくる共和国軍を次々に撃ち殺す。 29

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「殺れ！」「アメリカ人だぞ！」共和国軍はヘンドリクスを包囲する。家々の中では今まさに虐待されていた村人たちが泣き叫んだ。BOOM！ナタリーのライフルが、今まさにヘンドリクスを背後から撃とうとしていた共和国兵を狙撃した。「まったくあの男……！なんてこと！」 30

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヘンドリクスは吊るし木を抱えるように掴んだ。両腕の分厚い筋肉が血管を浮かび上がらせた。彼は唸った。樹はミシミシと音を立てた。「アメリカ？共和国？貴様らの身勝手な戦いのとばっちりで不幸になるのは、こいつら市井の連中だ！」木の幹が裂けた。ヘンドリクスは樹木を振り回し、叩きつけた。31

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

まるで怒り狂った象だ。ナタリーは言葉を失う。ヘンドリクスが降りまわす樹木によって共和国兵はなぎ倒された。ヘンドリクスは樹木を投げ捨てると、村の中央部に設置されたガン・タレットを奪った。そしてキュラキュラと音を立てて接近してくる装甲車に狙いを定めた。BRATATATATATA！32

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KA-BOOOM！装甲車が爆発炎上！「丘の下からも来るわ！戦車よ！」ナタリーが叫ぶ！ガン・タレットからは射撃できない位置だ！農道を高速前進する戦車！砲塔がゆっくりと回転し、今にも無差別殺戮を開始しそうだ！ヘンドリクスは叫び、渾身の力をこめ、重火器をタレットから……引き抜いた！33

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

強靭なヘンドリクスの上腕二頭筋が、背筋が、そしてジャッキめいた両腿の筋肉が、今にも張り裂けんばかり。だが彼は一歩、また一歩と前進し……戦車に向け掃射！BRATATATATA！凄まじい震動！だが止めぬ！人間業ではない。鍛え上げられた肉体が一個の兵器と化した。ストライカー魂だ！　34

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BRATA！BRATATA！BRATATATA……KRA-TOOOOM！遂に戦車は爆発し、動かぬ鉄屑と化した。共和国軍は這う這うの体で壊走してゆく。「ヘルゴナント！」「ヘルゴナ！」村人たちが現地語を叫びながら広場へ走り出、空に向かって空砲を鳴らした。自由が帰ってきたのだ……。35

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウォンドーピア！」「ヘルトロント！」口々に快哉し、互いに抱き合う村人たち。ナタリーも頬を上気させて駆けつけ、束の間の勝利を祝おうとする。うずくまるヘンドリクスの背中を見た時、彼女の目は曇った。「一体……」彼女の言葉は続かなかった。男は、死んだ少年を抱え、背中で泣いていた。36

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなたのせいじゃないわ」ナタリーの手がヘンドリクスの震える肩に触れた。「……大佐に伝えろ。ギャランティーは、ヘラジカのハムよりもずっと高くなると」ヘンドリクスは抑揚のない低い声で呟いた。「この映画撮影は、とてつもなくシリアスになるとな……！」37

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

_____________ 38

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヘルゴニアに夜が訪れる。二人の戦士は共和国軍の追跡を避けるため、山林地帯の無人ロッジに身を隠していた。イトスギの薪が暖炉の中で爆ぜ、室内を柔らかく照らす。テーブルの上にはランタンと作戦地図。壁に掛けられた色褪せたヘルゴニア旗と合衆国旗が、失われた自由と平和の時代を想起させる。39

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「村人から提供された情報から判断すると」ナタリーが地図上に何本も線を引く。「メレンキャンプの地下要塞は……この先の渓谷、巨大な滝壺のすぐ後ろに築かれている。現地語で死の滝と呼ばれる場所」「いかにも臆病者が考えそうな基地だ」狩ったウサギ肉を暖炉で炙りながらヘンドリクスが言った。40

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「美味しそう」肩越しにナタリーが暖炉を覗き込む。ヘンドリクスの背中は峻厳なヘルゴニアの山のようだ。「どうした」「なんでもない」ヘンドリクスは振り返り、ナタリーを見る。彼女の目は冬の凍った湖のほとりで燃やす焚火のようだ。……やがて、揺れる暖炉の火が、睦み合う二人の影を揺らす。41

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……数時間後、ナタリーは隣に横になったヘンドリクスの背中に触れ、不思議そうに、大きな鴉の刺青を指でなぞった。「気になるか」姿勢を変えることなく、ヘンドリクスが呟く。「ええ……」「これはストライカーの印だ。そして、俺の贖罪なのだ」「贖罪？」「俺が仲間を殺した。そう。俺のせいで」42

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは部隊章であった。ストライカー部隊の全員が背に持つタトゥー。だが仲間はもういない。ヘンドリクスが最後の生き残りなのだ。「あの日、ついに戦地へと向かっていた俺たちの潜水艦に、致命的なトラブルが発生した。脱出できたのは俺だけだった」彼は告解するように言う。「全員、海の底だ」　43

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなたのせいじゃないわ。その時も、あなたはきっと勇敢に戦ったのよ。仲間を助けるために。私にはわかる」ナタリーが背中から彼をもう一度抱きしめた。「俺は臆病者だ。だからスタントマンになって逃げようとしていた」ナタリーの手を取り、共に拳を握った。「だが今日で終わりだ。戦う時だ」　44

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

_________________ 45

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブタの群れの中に、羊を投げ込む。そうすると、どうなると思うね？」戦略机を前に、メレンキャンプは余裕ある仕草で行ったり来たりを繰り返した。ホワイトボードには北米の地図と、じつに七つの×印。なんと恐ろしい事か。部屋の壁際には、縛られ、座らされた村人が震えている。「答えたまえ」46