コンビニバイトの鹿島さん

きっと処女に違いないさ
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洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「そ、そうなんですか?」 「そうです! まだお疑いなら店長に聞いてもいいですよ!」 鹿島さんは口を真一文字に結んだ。この時、店長さんは飲料の追加中で奥の方にいたが、ちょっと行って聞くくらい造作もない距離だった。鹿島さんに開き直っている感じもない。真実だったのだ。

2016-02-10 16:57:53
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「い、いえ、なんかすみません……」 僕はその場で頭を下げた。こういう時にも伏し目がちで、おどおどとした行動しかとれないのが悲しい所である。 「えっ、あの……こちらこそむきになっちゃってすみません……」 鹿島さんはいい人だ。僕と話してくれているだけで奇跡なのだ。

2016-02-10 17:02:11
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

僕は多くを望み過ぎた。毎日コンビニに通っていれば誰だって常連になる。僕でなくとも鹿島さんは分け隔てなく優しく接するだろうし、僕とよく名前を間違えていた斉藤というのもきっと常連なのだろう。それを僕は勘違いして、車で送るなんて言って、後をつけて勝手に傷付き、八つ当たりまでした。

2016-02-10 17:04:20
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

僕はなんて嫌な奴なんだ。知っていたけど最悪だ。僕にとって鹿島さんが特別でも、鹿島さんにとっての僕はバイト先のコンビニによく来るお客程度の存在なのだ。バイトが終わったら僕は鹿島さんの日常にまったく存在しないし、バイトを辞めたら僕のことなんてなかったことになるのだろう。

2016-02-10 17:06:08
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

もう帰ろう。やはりここに来るべきではなかった。あのイケメンが彼氏だったらどんなに楽だったことか。 「……すみませんでした」 僕はもう一度もごもごとした声で謝るとレジ袋を持った。 「待ってください!」 鹿島さんが僕の背中に呼びかける。 「……お車、今日は空いていますか?」

2016-02-10 17:08:49
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

1時間後。 僕の車に鹿島さんが乗っていた。正確に言うと僕の隣、普段なら借りたDVDとかコンビニのお菓子類とかが無造作に置かれている助手席に鹿島さんが座っているのだ。 「運転、お上手ですね♥」 鹿島さんはきっと微笑んだ。

2016-02-10 17:11:38
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

そちらを見てしまったら永遠に前方不注意になってしまう気がして、僕は自分の首を意志のコンクリートで固めて赤信号の方に向けたまま何とか保った。 「鹿島さんのお家へ向かえばいいんですか?」 僕の口から出た言葉は、きっと別の誰かが喋っていた。異次元にいる僕のコントローラーが発した音声。

2016-02-10 17:14:59
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「それもいいんですけど、私、ちょっと海が見たいかも……連れて行ってくださいますか?」 「……分かりました」 僕はあの日、鹿島さんがイケメンの弟とスポーツカーで辿ったのと同じルートに車を走らせた。僕が無口なのを気遣ってか知らないが、鹿島さんはよく喋ってくれた。

2016-02-10 17:17:12
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

通っている女子大の愚痴、お金持ちだが厳しい両親の愚痴、バイトの愚痴、思い返せば愚痴ばかりだったが、鹿島さんのストレス発散になったようなのでそれでいいと思った。いつもは煙草臭い車内が鹿島さんの苺みたいな甘い香りで満たされていて、僕はこの時ばかりは狭い軽自動車でよかったと思った。

2016-02-10 17:19:11
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

やがて海に夕陽が落ちてしまい、窓からは暗闇しか見えなくなった。冬の日は落ちるのが早い。鹿島さんに「そろそろお家に向かいますよ」と言うと、鹿島さんは「お腹空いちゃいましたね」とだけ言った。僕は車を繁華街の方に走らせた。特に深い意味はない、鹿島さんは天然なんだ。そう言い聞かせた。

2016-02-10 17:21:49
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

適当な駐車場に車を停めて夕食を取るため地下街へ入った。途中、僕はATMでお金をありったけ下ろした。もう一食位なら奢ってもいいやと思った。鹿島さんはATMから戻ってきた僕の手とナチュラルに手を繋いだ。それも指を絡ませる恋人繋ぎというやつだ。人生初の出来事に僕の脳味噌はパニックになる

2016-02-10 17:24:19
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「また手が冷たいですよ、佐藤さん♥」 なぜかやんわりと怒られた。僕は手が冷たくてよかったと思った。もう一生手袋をしなくてもいい気がした。 「お嫌いなものってありますか?」 「な、いです」 「うふっ、それならハンバーグでもいいですよね♥」 はしゃぐ鹿島さんはこの上なく可愛かった。

2016-02-10 17:26:11
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

僕らはハンバーグが売りのお店に入って注文をした。大人っぽいものとかスイーツ系とかが似合う鹿島さんが、お子様向けのチーズハンバーグが運ばれてきた時、「旗が立っていますよ♥ 可愛いです♥」と喜んでいて、僕はそのギャップに心を鷲掴みにされた。ハンバーグの味はまったく覚えていない。

2016-02-10 17:28:27
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

払いますよと鹿島さんは渋ったが、僕は意地で奢ってお店を出た。鹿島さんはセーターの上にコートを着ていたのだが、下はスカートとブーツだったため結構な範囲で生脚が露出していた。寒そうだなぁと思ったが、女の子はみんな冬でも足を出していたりするので、きっと男とは感覚が違うのだろうと思った。

2016-02-10 17:31:13
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

地上に出てしばらく歩いた。鹿島さんは僕に身体を寄せてきた。女の子の柔らかさも僕には初体験だった。 やがて僕らは所謂ラブホ街へ入った。 「ちょっと、休憩したいです……どこか静かな場所で」 鹿島さんがそんなことを言う。いくら恋愛経験のない僕でもそれがどういう意味なのかはすぐに分かった

2016-02-10 17:34:41
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

鹿島さんと一緒にラブホテルに入った。どうしてこんなことになっているのか全く分からないが、とにかくもうやるしかなかった。鹿島さんはラブホテルに入るのが初めてのようで(僕も初めてだったが)多様な部屋の種類にテンションを上げていた。緊張感で死にそうな僕とは大違いだ。

2016-02-10 17:43:10
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

ラブホテルに入ったことがない=処女、と考えるのは短絡的だが、鹿島さんのテンションの高さはこれからすることが恥ずかしくて隠そうとしているようにも思えたし、もしかしたら性知識も薄い処女の可能性だってある。僕のように卑屈な人間は処女というものに異常にこだわる。

2016-02-10 17:44:43
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

たとえ鹿島さんが処女でなくともその美しさに変わりはないが、鹿島さんが処女であれば僕の独占欲は満たされるし、処女を破った誰かに嫉妬することもない。悉く、僕は器の小さな男だ。 鹿島さんが選んだ部屋はピンク色のハートが壁やらベッドやらに散りばめられている全体的にファンシーな部屋だった。

2016-02-10 17:46:56
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

慣れた人ならホテルの中に入る前から雰囲気を上手く作るはずだし、シャワーだって手際よく浴びるのだろう。しかし、僕は何もかも分からなかったから、とりあえず丸くて可愛い椅子に座った鹿島さんにしどろもどろにこう言った。 「ああ、汗、かいちゃったので……シャワー、浴びます……」

2016-02-10 17:48:40
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「はい♥ 運転していただいてお疲れでしょうしごゆっくり♥」 鹿島さんも疲れていたのだろう、僕の言葉の意味を本当に分かっていたのかは知らない。 「お、お先に……」 僕はすりガラスのシャワー室に入ってとりあえず服を脱ぐとシャワーの下に立って蛇口をひねった。

2016-02-10 17:50:44
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

緊張のあまり勃起しなかった愚息だが、鹿島さんがすぐそこにいるのかと思うとようやく硬くなってくれた。どんなところを見られてもいいように念入りに身体を洗い、煙草の匂いを消すために歯をしっかり磨いた。バスローブみたいなものに袖を通してシャワー室を出る。 「空きましたよ……」

2016-02-10 17:54:00
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「んん……」 鹿島さんはベッドの上で眠っていた。いや、正確に言えばベッドの上に横になってまどろんだ表情を浮かべつつお酒を飲んでいた。空調のせいだろうか、どうやら熱いらしくセーターを脱いでいる鹿島さんは薄い白ワイシャツと黒いスカートという夏場のOLみたいな格好だった。

2016-02-10 17:56:38
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

そう言えば車の中で、寒がりだとか、別のバイトから来たからスーツっぽい恰好をしたんだとか何とか言っていたっけ。 「鹿島さん……?」 鹿島さんのシャツのボタンは4つも外れていて、薄いブルーの下着の色が浮いているどころか白く深い谷間がもろに見えていた。開

2016-02-10 17:58:26
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

大胆に開かれた脚の向こうにはむっちりと肉のついた太腿と、飢えと同じ色の下着もまた見える。お酒のせいでトロンとまどろんだような表情は官能的で、僕はもう我慢できずに鹿島さんへ飛びついてしまった。 「きゃっ……どうしたんですかぁ♥」 鹿島さんの手からお酒の缶を奪ってその辺に投げた。

2016-02-10 18:00:15
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

中身はほとんど減っていなかったようで床に丸く広がった。鹿島さんはお酒にあまり強くないのかもしれない。 「鹿島さんッ……鹿島さんッ!」 僕は鹿島さんの肩を両手で押さえながら、その開いた胸に顔を埋める。童貞の僕は気持ちばかりが先行して歯止めが効かなくなっていた。

2016-02-10 18:02:38