「#PR」が必要な境界線はどこ? 今さら聞けない「ステマ」の定義をトゥギャッター代表が弁護士に聞いた【前編】

#PR」が不要なケースもある?意外と複雑な「ステマ」の定義
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みなさんは「ステルスマーケティング(以下、ステマ)」について、どれだけ知っているだろうか?

正直なところ、今記事を書いている筆者も自信がない。何となく「広告であることを隠している広告」と理解はしているものの、X(Twitter)上のポストを見て「これはステマだ」とは気づけないし、実際に誰がどんな罰則を受けるのかも知らない。筆者と同じような心境のメディア関係者や企業のマーケティング担当は少なくないと思っている。

2023年10月1日に景品表示法によるステマ規制がスタートして以降、X上では以前から見受けられた「#PR」と書かれたポストがさらに増えるようになった。でも、ステマについて正しく理解したうえで「#PR」と付けているのではなく、「ステマと疑われたくない」ので何となく付けてはいないだろうか?

たとえば「推しの作品を布教したい!」と、誰かから依頼されたわけじゃないのに「#PR」を付けて何かをポストした場合、別のトラブルが起きる可能性がある。Togetter(トゥギャッター)もまさにその問題に直面しているところだ。

そこで2023年10月、トゥギャッター代表の吉田俊明がステマ規制に詳しい池田・染谷法律事務所の染谷隆明弁護士(@somerson29)に話を聞いた。

これさえ読めばステマに関する理解を深められる。メディアや企業だけでなく、インフルエンサーやブロガー、すべてのXユーザーにとっても有益な「今さら聞けないステマ講座」、大ボリュームでお届けしたい。

弁護士・染谷さん&弊社代表・吉田プロフィール


まずは「ステマ」の定義を正しく理解しよう

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そもそもなんですけど、ステマ法規制は「ステマって何だろう?」っていうところを理解できれば、案件ごとにステマかそうじゃないかが判断できるんじゃないかと考えているんです。「ステマ」の定義は決まっているのでしょうか?

ステマ規制の導入を検討した、消費者庁のステルスマーケティング検討会では、ステマとは「広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を出稿すること」と定義していました。より正確には、景表法上「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が不当表示として指定されています。 

※景品表示法:商品やサービスの不当表示や過大な景品類から一般消費者の利益を保護するための法律。正式には、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)という名称の法律。

ステマの具体的な要件としては、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と定められています。

この要件を満たす表示をすればステマに該当し、景表法に違反する結果、消費者庁をはじめとした規制当局から違反した事業者に対して措置命令が行われることとなります。

景表法でいう「表示」というのは?

「表示」とは、景表法第2条第4項において「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務(サービス)の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であって、内閣総理大臣が指定するもの」と定義されています。

つまり、一般消費者に対して商品・サービスに関して顧客を誘引するための手段として行う広告や表示全般のことを指しています。

より詳細な「表示」の定義は消費者庁ホームページにある「表示に関するQ&A」もご参照ください。


景表法が定める「広告」は世間の認識と違う?

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一般ユーザーはステマかステマじゃないか、何を基準に見分ければいいんですか?

ステマ規制の本質を突いた質問ですね。それは結局、「広告とは何か」という話に行き着きます。先程のステマの要件との関係では、下記の「①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」とは何か、という問題です。

①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

今回導入されたステマ規制は、景表法という土台の上に作ったものになります。このため景表法の枠内で「広告とは何か」ということを考えることになります。

そして景表法は、いわゆる優良誤認表示※や有利誤認表示などのように商品・サービスの実際と異なる内容の表示をすることによって、一般消費者に誤認されることを防止する法律です。つまり、景表法の表示規制は、表示内容の規制なんですね。だから事業者が、一般消費者に誤解される表示内容を決めて、その表示内容を市場に出したことに非難可能性があるため、措置命令などの行政処分ができるわけです。

したがって、景表法における広告とは「表示内容の決定に関与したと認められる」ものをいいます。過去の裁判例※も同様の考えに立っており、景表法の実務に定着した考え方です。消費者庁が公表したステマ運用基準でも同様の考え方が採用されています。

※優良誤認表示:商品・サービスの内容について実際のものより優れているかのように表示する行為

※有利誤認表示:商品・サービスの取引条件について実際のものより有利であるかのように表示する行為

※非難可能性:適法な行為を選択できたにもかかわらず違法行為に出た責任

※東京高判平成20年5月23日(平成19年(行ケ)第5号)

※ステマ運用基準:「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準

なるほど。

その観点で広告を考えると、景表法の考えと、世間でいう広告の考えとの間には若干のズレがあるように感じています。

つまり、景表法における広告とは「(事業者が)表示内容の決定に関与したと認められる」ものを指しますが、世間では表示内容を決めたかどうかで判断するのではなく、商品やサービスを売るためのあらゆるコミュニケーションを広告だと捉えている方が多いのではないでしょうか。

たしかにそうですね。

特に景表法の表示である「表示内容の決定に関与したと認められる」ものとは、表示の生成過程を個別具体的事案に応じて判断することになります。ステマ運用基準でも例えば下記の事項などを踏まえて総合的に判断するとされています。

  • 事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容 (例えば、メール、口頭、送付状等の内容)
  • 事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容、その主な提供理由(例えば、宣伝する目的であるかどうか。 )
  •  事業者と第三者の関係性の状況(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提供していた関係性がある場合に、 その関係性がどの程度続いていたのか、今後、 第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか。 )

なので、景表法の表示に当たるか否かは、外形上の表示だけでなく、表示の生成過程の実態を見なければ判断できないわけですが、世間はこのような表示の生成過程の実態を、表示の外形上知れるわけでないところにも先程申し上げた認識のズレの原因があるように思います。

実態を見極めることは消費者には難しいところだと思います。

例えば、あるXユーザーが特定商品を勧める場合において、事業者(広告主)が「表示内容の決定に関与したと認められる」ものではないのであれば、景表法上、本来「#PR」など付ける必要はありません。しかし、この投稿者がステマではないかという疑いを避けるために「#PR」をつけるということが行われたとします。これは一つのリスク回避の判断としてあり得るものの、次のような別の問題も発生する場合があります。

すなわち、事業者からすると、自ら「表示内容の決定に関与したと認められる」ものではないのに、勝手に「#PR」などを付けられると、外形上状はあたかも事業者が自ら第三者に表示を委託して広告しているように見えてしまうわけです。

X上で行われた投稿に関して「#PR」がついているがため、その事業者が責任を負う表示であるように外形上見えてしまうことで、その投稿を見た方から広告主に問い合わせが来てしまい、困っているという例も発生しているようです。

それこそまさに問題なんですよね。景表法の罰則を受けるのは事業主(広告主)であるぶん、本来はつけなくてもいい「#PR」を付けると事業主が困ってしまう点については、もっと周知していかなくてはいけないと思います。

※違反した場合の罰則:まず再発防止を求める措置命令が出され、投稿主に広告を依頼した事業者名が公表される。措置命令に従わない場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金などが科される。

ですから、ご質問の「広告とは何か?」という場合、景表法の議論をしているのか、世間がどの観点から広告を捉えるかという議論なのか意識すると良いと思います。その上で、事業者としても、こうしたズレがあることを念頭に、ステマ規制だけに対応するのか、それだけでなく世間の人が広告と考えるものに関しても対応するのか、検討していただく必要があるように思います。


企業がXで自社サービスについてポストする場合「#PR」は必要?

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たとえば企業が自社のXアカウントで自社の商品・サービスについてポストする行為は、すべて広告に当たるわけですか?

はい。事業者が自ら公式アカウントなどで行う表示は、事業者が自らその内容を決めて投稿しているわけですから、景表法上の広告(表示)に該当します。

そうしますと、事業者の広告なので、一般ユーザーがわかるように「#PR」などをつける必要があるのでしょうか?

この場合は、通常、「#PR」などをつける必要はないとされています。なぜなら、事業者が自らの公式アカウントであるとわかる形でXアカウントを運用している場合、そこで行われる自社商品・サービスの投稿は、広告であると一般消費者が認識できるためです。

この考えは、2023年3月に消費者庁が発表した「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準でも明らかにされています。すなわち、ステマ運用基準において、「事業者自身のウェブサイト(例えば、特定の商品又は役務を特集するなど、期間限定で一般消費者に表示されるウェブサイトも含む。)における表示を行う場合。」は通常、「事業者の表示であることが一般消費者にとって明瞭である又は社会通念上明らかである」とされていますから、この場合、「#PR」表示が求められるわけではありません。

つまり「X上のアカウントが公式アカウントであることが客観的に明らかなのであれば、そこでの投稿は広告であることは明らかなので、あえてPRと書く必要がない」ということです。

なるほど。企業名などがアカウント名に書いてあるわけだから、そこで行われている自社の商品・サービスについての投稿などは明らかに広告である、というわけですね。

はい、そのとおりです。

ただし、ステマ運用基準上、事業者自身の公式アカウントでも当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合(例えば、投稿上で、専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるものの、実際には、事業者が当該第三者に依頼・指示をして特定の内容の表示をさせた場合や、そもそも事業者が作成し、第三者に何らの依頼すらしていない場合)には、第三者の表示は、当該事業者の表示であることを明瞭に表示しなければならないと考えられており、注意が必要です(ステマ運用基準第3・2(1)オ(ア)参照)


Xでバズった企業アカウントの投稿をトゥギャッターでまとめたら「#PR」は必要?

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では、弊社のサービスで実際にあったことを例に質問します。Xである企業が投稿したPRのポストがすごく反響があって、それを見ていた企業とは何ら関係がない一般ユーザーがトゥギャッターでまとめを作ったとします。

内容は全部その企業の商品の投稿で埋められているけど、まとめを作ったユーザーに対して企業から金銭の受け渡しも編集に関わった事実もなく一切関係がない。そういった場合、さっきの話で言うと「#PR」などをつける必要はないんですね?

先ほど申し上げたとおり、景表法における広告とは「表示内容の決定に関与したと認められる」ものをいいます。今の事例では、トゥギャッターという媒体でのその表示の内容を誰が決めたのか、という意味でいいますと、まとめを作った一般ユーザーの方が決めたといえます。そして、この方は企業とは何ら関係がないということです。

そうであれば、まとめを構成する一つ一つの投稿は企業が投稿したものであっても、企業自体は、そのトゥギャッターという媒体での表示内容の決定には何ら関与していないわけですから、トゥギャッターにおける表示内容はその一般ユーザーの方が決めたものである、ということです。

はい、言ってみれば「推し活」みたいな考え方に近いと思います。自分の好きなコンテンツが盛り上がっているから善意でまとめを作りました、というような状況ですね。

なので、そのトゥギャッターのまとめは、景表法上、その企業にとっての表示ではないので、「PR」の表示は不要です。卑近な例ですが、私が今飲んでいるコーヒーについて「これ美味しいですね」と言ったら、コーヒーメーカーにとってステマに当たるのか?と言ったらそんなわけないですよね。あくまで表示内容を決めているのは私ですし、このコーヒーメーカーと私は何の関係もないためです。

それと、その一般ユーザーの方が、実はその企業の商品を販売していたといった事情などがないのであれば、トゥギャッター上のまとめは一般ユーザーにとっても景表法の広告(表示)には該当しません。その商品に関して顧客を誘引している関係にないからです。したがって、その一般ユーザーとの関係においても「#PR」は不要となります。


自分が務めている会社のサービスについてポストする時「#PR」はいる?

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最近Xを見ていると、「株式会社○○の△△を作りました!」などと自分が関わった案件についてポストをする場合、「#PR」を付けているケースがあります。こういった場合、「#PR」などの表記は必要でしょうか?

※自分が関わった案件をポストしたいけど…(イメージ画像)

もしそのユーザーが、Xのユーザーネームやその投稿内で自らその企業の従業員であることを一般消費者にわかる形で明瞭に示していたということであれば、景表法上、「#PR」表示は不要ですね。その企業の従業員であることが表示されているため、その投稿が広告であることが一般消費者にとって明らかであるためです。もちろん、さらにわかりやすさの観点から「#PR」とつけることは妨げられるものではありません。

自社の商品について「自分が関わったからぜひ使ってみてください」といったポストなら、関係性はわかりやすいですよね。

投稿内やユーザーネームで明瞭に「〇〇社員です」などと書いておけば、企業との関係性を明示しているのであれば大丈夫だと思います。

そういう関係性を明示していない状態で、裏でその企業から仕事を請け負っていたユーザーが「◯◯さんの△△ってサービスが使いやすい!」などと宣伝したら、ステマになるわけですか?

その企業と仕事を請け負っており投稿した人との間の関係性について実態を見て、企業が「表示内容の決定に関与したと認められる」か否か判断する必要がありますが、ご指摘いただいたケースですと通常、「表示内容の決定に関与したと認められる」と判断されると思います。このため、上記のような関係性が示されていないということであればステマになると考えられます。


自分が勤めている会社のサービスを匿名で宣伝しちゃダメ?

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では、その企業のマーケティング担当が、企業との関係を示すことなく、匿名で自社サービスの新機能について「この機能がすごくてさ〜」とポストしたら、いかがですか?

通常、ステマに当たるだろうと考えられます。理由は次のとおりです。

まず、原則として事業者と従業員は主体が異なることから従業員の表示が、当然に法人の表示となるわけではありません。しかし、ステマ運用基準上、「事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った事業者の商品又は役務に関する表示」は、従業員の表示であっても、事業者の表示になるとされています(ステマ運用基準第2・1(1)ア)。

「一体と認められる場合」で一番わかりやすいのは社長です。社長は会社を代表していますから、代表の行為は会社の行為です。社長が会社を代表して自社商品について何かポストしたら、それは会社としてのポストとなります。このため、社長が自らの身分を秘して、そのような投稿をした場合において「PR」等広告であることがわかる表示がない場合には、その企業によるステマとなります。

そうですよね。

最終的に個別事案に応じた判断をする必要がありますが、社長以外にも、例えば、企業内でセールスやプロモーションを行う立場にある人が、SNS上で自社商品について投稿している場合、会社としては自社商品の売上向上のための役割をその人に求めているわけでしょうから、このような場合には、「一体と認められる場合」に該当し、そのポストは会社の表示である、と評価され得ます。このため、その投稿に「PR」等広告であることがわかる表示がない場合にはステマとなり得ます。

他方で、きちんと「PR」や「○○社マーケティング担当です」などと記載していただいているのであれば、ステマにはなりません。

つまりその人がそこの会社のマーケティングをやっていると関係性を明示していれば、「#PR」などをつける必要はないんですね。

社員による投稿とわかっていれば、一般消費者としては、広告であると判別できますので、通常問題ありません。


クライアントに「ポストしてよ」と頼まれて投稿したポストに「#PR」は必要?

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業務委託を受けた人が、インフルエンサーでもあったという場合、クライアントから「バズらせたいからポストしてよ」と言われた結果、PR等記載しないなど広告であることを判別できない形で投稿したら、ステマですか? 委託された業務としては、投稿業務が含まれていなかったことが前提の質問です。

先程申し上げたとおり、景表法における広告とは「表示内容の決定に関与したと認められる」ものをいい、かつ、個別事案に応じて判断する必要があるので十把一絡げに回答できるものではないですが、ご指摘のケースでは通常、ステマになると考えられます。

業務委託内容として、投稿業務が含まれていなかったとしても、クライアント(委託元)から「バズらせたいからポストしてよ」と言った場合、バズるような内容を投稿することを委託していると評価することができます。この結果、投稿したということであれば、その投稿の表示内容はクライアント(委託元)が決定したものであると評価されるものと考えられます。したがって、きちんと「#PR」等の表示をしていただく必要があります。


ステマを簡単に見分ける方法はある?

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一般ユーザーは本当にステマを見分ける方法はないのでしょうか?

景表法におけるステマは、投稿者と広告主の関係性を実質的に見たうえで、事業者が表示内容の決定に関与したといえるか判断する必要があるため、第三者が見分けることは難しいです。ただし、注意すべきポイントはいくつかあるように思います。

たとえば、普段は特に利害関係がなさそうな人が脈絡もなく特定の商品をプッシュし始めたら怪しいじゃないですか。

その他にも記事広告とかはわかりますよね。「いろいろ試してみてダメだったこの悩みが、ある商品を使ったら治りました!」みたいな記事があって、下にスクロールすると「今なら定期購入で1回分お得」という表示と共に、公式ページに飛ぶボタンが置かれていれば、それはアフィリエイトでは?などと疑いますよね。

そういう意味では、広告を見る際における広告リテラシーを持っていただくことが重要ではないかと思います。消費者教育の内容として広告リテラシーの向上も検討していくべきだとように思います。

※アフィリエイト:インターネットを利用した広告プログラムの一種。「成果報酬型広告」とも呼ばれる。

※消費者教育:消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育


実際にステマと思われる投稿を見かけたら…

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SNSやレビューサイトなどでステマと思しき投稿を見かけた場合、一般ユーザーにできることはありますか?

※こんなポストを見かけたらどうしたら…?(イメージ画像)

まずは騙されないことが重要ですね。

その上で、さらに何かを行うということであれば、一般論としては消費者庁の表示対策課へ連絡する、でしょうか。消費者庁は、ステマ施行に合わせて「ステルスマーケティングに関する景品表示法違反被疑情報提供フォーム」というフォームの運用を開始しています。

あと、今回のステマ規制は指定告示というものに基づいて作られたので、都道府県知事も調査権限を持っています。ですから、騙されてしまったという場合には、全国各地にある消費生活センター等に相談するという手段もあり得ます。

※指定告示:内閣総理大臣によって指定された不当表示のこと。

一般論としては、消費者生活センター等に問い合わせることで「消費者相談データベース」に相談内容が溜まれば溜まるほど、誤認をした一般消費者が多いといえますので、当局による調査が開始される場合があり得ます。 

逆に、X上などでステマじゃないのにステマだと嫌疑を掛けてくるユーザーがいて困っていた場合、自衛のために何か対応できることはありますか?

事案によりますので、一般論となりますが、まずは、自ら行っている表示がステマの要件を満たすのか否かを慎重に確認いただくことが重要だと思います。


企業から報酬をもらってSNSで宣伝をするときの注意点は

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企業から報酬付きで「SNSでおすすめしてほしい」と依頼された場合、一般ユーザーはどんなことに気をつけたほうがいいでしょう?

ちゃんと「#PR」、「商品提供を受けました」などと明瞭に記載し、広告であることを隠さないように気をつけることが重要です。

ただ、ステマ規制に関して言えば今申し上げたとおりですが、景表法の不当表示はステマ以外にも優良誤認表示・有利誤認表示等ありますので、こうした不当表示にならないことが重要です。たとえば「この健康食品を飲んだら外形状明らかなほどウェスト周りが痩せた」という投稿をする場合、単なる健康食品でこのような効果は標榜できませんから、このような効果に対応するエビデンスを有しておらず、通常、(広告主が)優良誤認表示となるものと考えられます。

また、そもそも、「外形状明らかなほどウェスト周りが痩せた」というのは身体の構造に影響を与えていることから、薬機法にも違反するおそれがある表示でもありますね。

※薬機法…医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律。

そういうケースもありますから、ステマかどうかだけでなく他の広告規制にも注意していただきたいと思います。

ステマだけでなく、その他の広告規制にも気をつけた方がいいと。やるんだったらちゃんと自衛してくださいということですね。

そうだと思います。例えば、私は仕事柄、クライアントであるメーカー側からインフルエンサーに表示を委託するというケースに立ち会うことがありますが、メガインフルエンサーのようなフォロワー数の非常に多い方は、自分のブランドイメージを毀損しないようにとても気を使っているように見受けられ、広告内容の吟味はしっかりされている例もよく見ます。

きちんと自衛ができる方だと企業側はありがたいですよね。


記事にアフィリエイトリンクを貼る時は全部「#PR」付けなきゃダメ?

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今回のステマ規制で影響がありそうなものとしてアフィリエイトがありますよね。

Togetterの場合、作ったまとめにAmazonアソシエイト・プログラム(以下、Amazonアソシエイト)のリンクを貼れる機能があるのですが、まとめ自体のインプレッションが高いので、リンクを貼っておくと多少の収入になります。

※Amazonアソシエイト・プログラム:コンテンツを訪れた人にAmazonで展開する商品へ誘導するリンクを作成・共有でき、適格販売が実現すると収益を得ることができる。

先ほどの例に当てはめると、そのAmazonアソシエイトのリンクに対してアフィリエイトの対象になっている商品の広告主が関与しているわけではなく、一般ユーザーが自発的にリンクを埋め込んでいるだけなので、広告でも何でもないという認識で考えていました。

それはX上で特定商品に関するポストがバズったときに、それをまとめたユーザーが、その商品のAmazonアソシエイトリンクを貼っているということですか?

そういうパターンもありますね。大きく2種類ぐらいあって、それ以外にまとめとは全然関係ない商品のリンクを貼っているパターンもあります。

実際にそうしたリンクを貼ったまとめに対し「ステマに当たるのでは?」と指摘するユーザーもいて、頭を悩ませているところです。

なるほど。アフィリエイトに関しても先ほど話したとおり、結局は誰が表示内容の決定に関与しているかが重要になります。この点、アフィリエイトなのでアフィリエイターが対価をもらうことがあります。こうした対価は、表示内容の決定に関与したことの考慮要素となりますが、その事実のみで直ちに表示内容の決定に関与したことにはならず、それ以外の考慮要素も事案に応じ、個別具体的に検討する必要があります。

消費者庁は、ステマ運用基準パブリックコメント(ルールについて国民から意見を募る手続)において、下記のとおり回答しています。

⚪︎ステマ運用基準パブコメ88質問

事業者から第三者に対価や経済上の利益の提供があったとしても、その事実のみを理由に「当該事業者と当該第三者との間に当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない関係性がある」と認定されるものではなく、その他の考慮要素も踏まえて総合的に判断される(つまり、利益提供秘匿型に相当する状況であっても「事業者の表示」に当たらない場合もあり得る)と理解してよいでしょうか。予見可能性を高めるために、運用基準で明示していただくべきと考えます。


⚪︎ステマ運用基準パブコメ88回答

御理解のとおりです。本告示において問題となるのは、事業者の表示であるか否かであり、対価や経済上の利益の提供はその判断に当たっての考慮要素となりますが、それ自体要件ではありません。この旨、既に本運用基準に記載しているところです。

とはいえ、アフィリエイト・プログラムは、広告主が、本来、加入する義務がない中、敢えてアフィリエイト・プログラムに加入して、アフィリエイターに広告をさせているという実態がありますので、通常、表示内容の決定に関与したとして、ステマ規制の対象となると考えられます。この場合には、「#PR」等の表示を行なっていただく必要があります。

ただ、アフィリエイト・プログラムやその利用実態にも多種多様のものがあるところであり、表示内容の決定に関与していないという例外的な場合も想定されるところです。例えば、Amazon アソシエイト・プログラムでは加入者がAmazonの出店者に断りなく、勝手にアフィリエイトリンクを貼ることができる形態のものもあるようです。そして、出店者の立場からしますと、Amazonに出店したい場合、必ずAmazonアソシエイトのパートナー契約をしなくてはいけないですし、Amazonに商品登録をした場合にはAmazonアソシエイトのアフィエイターは出店者の断りなく、アフィリエイトリンクが貼られるということとなり、事前事後の許諾などもない場合があるようです。

そうですね。

この点、2022年に改定された「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」では、「広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはない」として、事業者の表示とならない例が記載されています。

そして、この記述は、ステマ運用基準にも引き継がれており、「アフィリエイターの表示であっても、事業者と当該アフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示を行う場合」には「事業者の表示にならない」として例示されています。

このような問題意識は、消費者庁がステマ規制を定める過程で行ったパブコメにおいても、現れています。例えば、下記の質問に対して、次のとおり、回答しています。

○ステマ検討会パブコメ質問68頁

デジタルプラットフォーマーによるステルスマーケティングに関して大手取引デジタルプラットフォーム提供者に出店する場合、同時にデジタルプラットフォームによるアフィリエイト広告サービスも利用せざるを得ず、事業者はどのようなアフィリエイト広告が行われているのか、それがステルスマーケティングか否か把握できない状況があります。その場合、事業者はアフィリエイト広告をするか否かの選択権もなく、表示内容を確認する手段もない状況ですので表示内容の決定に関与したとは考えられないかと思います。その場合、事業者はアフィリエイト広告をするか否かの選択権もなく、表示内容を確認する手段もない状況ですので表示内容の決定に関与したとは考えられないかと思いますが、P.40 の「(イ) 事業者が「表示内容の決定に関与した」とされないものについて」の事例として明記いただけないでしょうか。ご検討をお願いいたします。


○ステマ検討会パブコメ回答68頁

報告書(案)に記載のとおり、「アフィリエイターの表示であっても、事業者とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある場合」については、「第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合」に該当すると整理しています。

また、消費者庁のステマ検討会の消費者庁事務局説明資料では、「販売者が多数参加するアフィリエイトプログラムを利用し、アフィリエイターと販売者とが事前のコミュニケーションを行わず、アフィリエイターが自分で選んだ販売者の商品を紹介するSNS投稿」に関し、「アフィリエイターの表示であっても、事業者とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、事業者の表示とはならない」ことが明示されています(第7回ステマ検討会資料2の2頁)。

加えて、ステマ検討会では「価格比較サイト、アフリエイトサイト型(原文ママ)の価格比較サイトなどをどのように考えるか。」という問題に対し、消費者庁事務局は、「事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示(比較サイトやポイントサイトにおける表示等も含む)を行う際に、アフィリエイターに委託して、当該事業者の商品又は役務について、表示をさせる場合であっても、事業者の表示となる。他方で、アフィリエイターの表示であっても、事業者とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、事業者の表示とはならない。」と説明資料の中で明示(同資料2の3頁)されているわけです。

こうした議論を経て、ステマ運用基準には、上記の考え方が反映されます。同趣旨の回答は、ステマパブコメ回答130にもおいてもなされているところです。

つまり「Amazonアソシエイトのリンクがある場合、#PRを入れないとステマになる」という認識はまったくの誤解なんですね。

というよりかは、Amazonアソシエイトだからステマ、または、ステマじゃないといった大鉈を振るった議論でなく、個別事案に応じて実態を見た上で「表示内容の決定に関与したと認められる」かどうか判断する必要がある、ということです。

景表法との関係では、あくまで表示内容の決定に関与したかどうかが重要なわけです。先程申し上げたとおり、アフィエイト広告については、通常、表示内容の決定に関与したと考えられますので、「#PR」等の表示が必要となります。

しかし、「事業者と当該アフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示」といえる場合には、ステマ規制の対象ではないということです。もちろん、こうした場合でも、事業者が表示内容を決定したかどうかは外形上明らかではありませんから誤解を避けるという趣旨で、任意に「#PR」や「お金をもらっている」等の記載することは妨げられるものではありません。

なるほど。

そして、アフィリエイトリンクを付けた人と、リンク先の商品を販売する企業との関係性次第ですが、例えば、出店者等と一切のやりとりがなされておらず、企業と何ら関係なく表示内容を決めた上で、投稿者において勝手にAmazonアソシエイトのアフィリエイトリンクを生成したという場合には、事業者(出店者等)が表示内容を決定したという評価にはなり難いと考えています。逆にいえば、出店者としてもこのような自ら一切関与していない表示について責任を負えと言われても、先のステマ検討会パブコメのとおり困るわけです。

他方で、アフィリエイトに丸投げ(白紙委任)している事案については事業者が表示内容の決定をしたと評価されるものと考えられますから、このような事案との線引きは個別事案に応じてしっかりと判断する必要があります。

また、繰り返しですが、その表示の生成過程の実態を見ることが大切で、例えば「実は広告主とやり取りをしていました」等の事情があれば話は別です。なので、Amazonアソシエイトにおいてそのような事情があるのであれば、その表示は事業者の表示なので、PR表示が必要である、ということです。いずれにせよ、個別事案に応じて実態を見た上で「表示内容の決定に関与したと認められる」かどうか判断することが重要です。

わかりました。確認できてよかったです。楽天アフィリエイトも同じような整理をしているようですね(ステルスマーケティング規制の対応について(2023年10月施行))。


【編集後記】今回Togetterがステマ規制関連の記事を作った理由

前編記事の終わりに、今回どうしてTogetterオリジナルでステマに関する記事を作ったのか理解いただくため、冒頭で話した「Togetterが直面している問題」について説明します。TogetterはX(Twitter)のポスト(ツイート)をユーザーが自由にまとめられるサービスを運営していますが、最近、法律上は不要であるはずの「#PR」をタイトルなどに付けたまとめが増えていました。

一方で、Togetterにもクライアントの依頼による広告まとめが存在し、その際はページ上部に「PR」や「提供」などと明記しています。つまり同じサービス内に、Togetterが関与している広告まとめと、Togetterと全く利害関係にないユーザーが独自に「PR」を記載しているまとめが併存することになります。

一般ユーザーからはどちらも「トゥギャッター社が関与した広告まとめ」に見えるため、関与していないコンテンツに関して問い合わせが来るようになっていました。一般ユーザーにこうした誤解を招かないよう社内で対策を進めている状況です。

本記事でも触れたように、景品表示法において表示に関する責任は、すべて広告主にあるとされています。ステマへの注意喚起と同じように、本来は付けなくてもよい「#PR」を付けると広告主が困ってしまう点についても、あわせて周知していく必要があると感じています。

後編記事はもう少し踏み込んで、企業やメディアがステマ法規制に対し注意すべき点などを具体的な事例を交えて紹介したいと思います。

記事中の画像付きツイートは許諾を得て使用しています。