- megamarsun
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ウィングはしばらくスティールを見つめた後に、あきらめたような表情で言った。「なんだと? それはなんだっ!」
2015-12-15 16:22:21「博士が死ぬ前に、最後に、わたしにだけ教えてくれたの。やつはただの機械兵士じゃない。やつは自己修復能力を持った人工細胞と人工筋肉によって何度でも立ち上がってくる。もし完全に破壊することができても、搭載されている核が起爆してあなたも助からないわ!
2015-12-15 16:22:31でもたった一箇所だけ、顎の下の部分にだけは動力源に直結した原始的なパーツが使われているの、スティール製の小さな歯車……」「スティールピニオン……」スティールはそう言いながら最後のタバコに火をつける。
2015-12-15 16:22:42「そこを破壊できれば、やつは機能停止して再生不能になるわ!核も起爆しない!」「ウィング、キミは勝利の女神……いやっ、勝利の天使だ! だから、そんな顔をするな…………必ず戻る!」「約束…………戻ったらあのときの続きを……」ウィングは必死に涙をこらえてスティールを見送りながら言った。
2015-12-15 16:23:04「そいつぁ夢のある話だ」スティールはタバコを吸い終わると決死の覚悟で戦場へと歩を進める。だが、その戦いの結末は驚くほど、あっけないものであった。スティールは、ウィングのアドバイスもむなしく、ついに敵を倒すことはかなわず、戦場に散ることとなったのだ。
2015-12-15 16:23:16「うそでしょ……スティール……返事をして! スティーールッ!」ウィングの悲痛な叫びだけが戦場の闇にこだましていた。
2015-12-15 16:23:38戦場で伝説と呼ばれた男とは思えない、何とも格好の悪い結末。伝説が聞いてあきれる。しかし、これは彼のせいではない。そう、ぼくのプレイスキルが余りにも低レベルだからだ。
2015-12-15 16:24:26何度も何度も死んでコンティニューして、そうしてやっと先に進む。ぼくはアイコクから発売されているスティールピニオンというゲームが大好きだったが、アクションゲームは余り得意ではなかった。そして、そろそろ仕事に行く時間。今日も徹夜明け。また会社で居眠りして上司にどやされるに違いない。
2015-12-15 16:24:37(そもそも顎の下を狙うと言っても、距離をとると相手は常に顎をガードしてくる。近づけば、こちらの動きを先読みしたように投げ技を繰り出してくる。どうしろと言うのだ)ぼくはしばらく考えてから、チャットソフトに表示された名前に目を向ける。(そうだ、天使ちゃんなら攻略法を知ってるかな?)
2015-12-15 16:24:48ハンドルネーム「天使ちゃん」。ネットで知り合ったゲーム大好き少女(本当に少女かどうかは不明)。あいにく、彼女のチャットの状態表示はオフラインを示していた。(学校かな? 仕事から戻ったら教えてもらおう)しかし、ぼくはスティールピニオンの攻略法をついに聞き出すことはできなかった。
2015-12-15 16:24:59その日を最後に、彼女のアカウントがオンラインになることは、なかったのである。 pub.fundee.in/projects/view/… PDF、Kindleはこちらで公開中です!
2015-12-15 16:25:06――プロローグ三 航空機墜落事故―― 十七年前、世間はテレビの前にすっかりくぎ付けになっていた。人々が夢中になって見ていたのは、自衛隊員に抱きかかえられてヘリに搬送される少年の映像だった。
2015-12-15 18:28:41その足元にあるはずの光景がテレビに流れることはなかったが、後日週刊誌などに掲載されている写真をしばしば見る機会があった。
2015-12-15 18:29:52おびただしい数の遺体が幾重にも折り重なって、まるでそれが色とりどりの縄がほつれているように見えたというのは、ぼくの不謹慎な個人の感想であって、その感想を人に話して共感を得ようということは、いささかもない。
2015-12-15 18:31:34だが、時折このときの航空機墜落事故を思い出して、禍福はあざなえる縄のごとしという言葉が頭をよぎる。五百名以上の乗客が亡くなった日、たしかに幸運はあったのだ。
2015-12-15 18:32:54たった数名の生存者。絶望的と言える状況の中で、日本の航空史上かつてない最大の惨事と言われるほどの最悪の事態の中で、彼らはたしかに生きるという幸運をつかんだのだ。
2015-12-15 18:34:17十七年が経過した今になって、なぜかその日のことを思い出してネットを検索すると、そのときの少年が無事成長して大人になっており、今どこでなにをしているのか、という記事が掲載されていた。彼について興味を抱いたことが、ぼくが世間では正しく知られていない、とある事件を知るきっかけとなった。
2015-12-15 18:35:50彼がどういう足跡を経て最後に栄光をつかんだのか、その物語の一部始終を知る数少ない人間としてこの物語を語ろうと思う。はじめに断っておくが、ぼくはこの物語の傍観者でしかない。アニメで言えばただのモブキャラである。
2015-12-15 18:42:04だが、とある出来事からぼくは彼に出会い、彼の歩んできた道のりをすべからく聞く機会を得た。その道のりは、すさまじいものであった。それは決して平たんなものではなく、ひいき目に言っても、絶望という言葉がふさわしいほどの苦難を伴う道のりだった。
2015-12-15 18:44:04しかし絶望的な状況を覆すほどの幸運を人は奇跡と呼ぶのではないか。そう、これからぼくが語るのは、そういう奇跡についての物語である。 pub.fundee.in/projects/view/… PDF、Kindleはこちらで公開中です!
2015-12-15 18:45:21――その少女に明日はあるのか?―― その日、世界的なベンチャーとしてIT業界をリードしてきた天宮(あまみや)システムは完膚なきまでの経営破綻に追い込まれ、全くの再生の見込みもなく、その十七年の歴史に幕を閉じることになった。
2015-12-15 20:14:34天宮システムの生み出した画期的な人工知能システムは、携帯電話やパソコンはもちろんのこと、電子レンジからトイレ、人命をあずかる医療機器、遺伝子情報の解析システム、人工衛星の制御に至るまで、あらゆるものに組み込まれ世界的なシェアを誇っていた。
2015-12-15 20:15:57しかしだからこそ、そのシステムに発覚した致命的なバグに対する訴訟は天文学的な数字となった。そのバグは簡単に言えばセキュリティホールの類だったが、医療機器などを経由して悪用すれば人命に関わるほどのもので、実際に世界で決して少なくないほどの人命に関わる極めて深刻な事故が発生していた。
2015-12-15 20:17:39バグを解消するパッチが配られる頃には既に製品の信頼は失墜し、更に悪いことにライバル企業の新製品がタイミングよく公開され、トラブルの隙をつかれて、あっという間にシェアを奪還されていた。
2015-12-15 20:21:21ライバル企業の新製品は、セキュリティを分散ネットワークに統合する構造的なアプローチによって、トラブルを未然に防ぐ処置をとっていたのだ。その技術は天宮システムが次世代のために準備していたバージョンアップ製品と酷似していた。
2015-12-15 20:22:56