「『遊戯王』全巻読まないと出られない部屋」やってみたレポ 38巻読み通すのにかかった時間は…

思ったより大変だったけど楽しかったデース!!!
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※この記事は漫画『遊戯王』のネタバレを含みます

Togetterオリジナル記事編集部のふ凡社です。

以前「『スラムダンク』全巻読み終わらないと出られない家」という企画を行った方を紹介した。

企画の概要は、漫画『スラムダンク』を読んだことのない友人たちを招いて家に「軟禁」し、(きめ細やかにもてなしつつ)全巻読破してもらうまで帰さないというもの。

「読んでみたいなと思いながらも、なんだかんだで機会を逃して読んだことがない名作」というものは誰にでもあるもの。スラダンを取り上げた時、編集部内でも「私も全巻読破するまで出られない企画やってみたい」という声があがっていた。

ということで、先陣切ってチャレンジしてみた。ターゲットはスラダンと同じく週刊少年ジャンプの名作『遊戯王』である。

画像はAmazonより

遊戯王とわたし

『遊戯王』と聞けば、真っ先にトレーディングカードゲーム(以下、TCG)が浮かぶ人が多いことだろう。

原作はTCGが生まれた原点であり、1996年から2004年にかけて連載された。ジャンプコミックス版は全38巻である。

遊戯王は私が小学生の時に学校で流行り、当時クラスの男子を中心にこぞってカードを集めていた。私も「なんか絵柄がカッコイイから」ということでハマり、集めるだけ集めていた。

「ブラックマジシャン」とか「ブラックマジシャンガール」とかカードの名前は知ってる(画像はAmazonより)

ただ、私の場合はカードを集めるだけでゲームのルールは知らず、また原作も読んだことがないまま今に至る。つまりチャレンジを始めるにあたっての私の遊戯王レベルは、

・初期のカードを多少知っている

・Twitterやネットで流れてくる遊戯王ネタから、断片的な原作知識を持ってる

くらい。

熱烈に集めていた時期があるにも関わらず、その核となるコンテンツに触れないままというなんとも中途半端な状態に終止符を打つぞ。

「遊戯王全巻読まないと出られない部屋」概要

2023年4月26日午前11時。私は己を自宅の一室に軟禁する形で「遊戯王全巻読まないと出られない部屋」をスタートした。

これが「遊戯王全巻読まないと出られない部屋」の全貌だ!

もちろんド平日で仕事も普通にあるので、営業時間中は「遊戯王読破」をメインタスクとしつつも途中ミーティングなどで中断するのはやむをえなかった。

そのほか、お手洗いや食事・シャワーなど生活に最低限必要な中座で部屋を離れることはあれど、基本的には「読み終わるまで部屋から出ない」という点は遵守する形で行った。

原作の基礎知識をお伝えするぜ

遊戯王を知らない方のために原作のあらすじを説明すると

ゲーム大好きの高校生・武藤 遊戯(むとう ゆうぎ)が、祖父から譲り受けた古代エジプトの立体パズルを解いてしまったことで、パズルに封印されていた謎の人格を心に住まわすことになる。遊戯は謎の人格とともにさまざまな「ゲーム」に興じることを通じて、謎の人格の正体を解き明かしていく…

という内容である。さらに本作の特徴的なポイントとして

1、謎の人格は「もう一人の遊戯」という名で呼ばれる。

2、高校生の武藤遊戯と、もう一人の遊戯は現実世界で入れ替わることができる。

3、「もう一人の遊戯」が主催するゲームは「闇のゲーム」と呼ばれ、現実のゲームをベースにしつつも、幻視などの超常現象を伴う特殊な内容になる。

の3点を抑えておけば、だいたいベースの知識はOKだ。(多分)

高校生の武藤遊戯は優しい顔をしている(画像はAmazonより)
もう一人の遊戯と入れ替わると、顔がキリッとする(画像はAmazonより)

怒涛のツッコミどころ

いざ読み始めてみると、これがメチャクチャ面白い。少年漫画として純粋にストーリーそのものの面白さもさることながら、「いやいやいやいや、そうはならんやろ!!!」というツッコミどころ満載の展開が怒涛の勢いで襲い来るのだ。

(以下、怒涛のツッコミどころ例)

今回、企画にあたって感想を実況ツイートしながら読み進めたのだが、3ページに1回くらいのペースでツッコミポイントが出てくるので大変である。

「合理性、整合性、小難しい要素なんてシャラくせぇ!!ノリと勢いでド派手に引きずり込んでいくぜ!!!振り落とされねぇ奴だけついて来な!!!」とでも言わんばかり勢いが心地よい。

個人的にツボだった『遊戯王』の魅力をいくつか紹介しよう。

遊戯王の魅力その1「主人公の住む町の治安が悪すぎる」

遊戯はじめメインキャラクターらが暮らしているのは「童実野町(どみのちょう)」という名の架空の街だ。この童実野町の治安がとにかく悪い。

序盤の数巻は、遊戯やその友人らが何かしらのトラブルに巻き込まれピンチに陥り、「もう一人の遊戯」が遊戯に代わって表に出ることで、トラブルの首謀者である悪者たちを懲らしめていくというテンプレートで進んでいく。

このトラブルの元凶となるヴィランズたちの狼藉っぷりは清々しく突き抜けており、暴力、強盗、脅迫、誘拐、人質を取っての立てこもり等々、あらゆる悪事を働く。

しかも悪人然とした人だけでなく、遊戯の同級生、教師、テレビ局スタッフ、会社経営者、店員などあらゆる社会的ステイタスの人たちが息をするように違法行為を仕掛けてくる。この治安の悪さを見るに、どう考えても童実野町の行政はまともに機能していないと言っていい。

勧善懲悪を描くにあたっての「悪の濃さ」が本作の魅力だと感じた。

遊戯王の魅力その2「闇のゲーム、主催者がやりたい放題すぎる」

悪者が突き抜けて悪いことは先に申し上げた通りだが、では「正義の味方は潔白か」といわれると全然そんなことはないのもまた、本作の魅力である。

『遊戯王』というタイトルの通り、この漫画において悪者を懲らしめる方法はほぼ『ゲーム』一択だ。(ほぼと書いたのは、たまに物理で敵に鉄槌を下す味方キャラも出てくるから)

その中心となるのが、「もう一人の遊戯」を中心に、選ばれたキャラクターのみが開催できる『闇のゲーム』である。闇のゲームは(作中において)実在するいろんなゲームをもとに展開されていくのだが、基本となる開催概要というか、ベースとなるルールの整備が整っておらず、進行やルールが主催者側にゆだねられている部分がかなり多い。

たとえば

1、事前に相手に『今からやるゲームは闇のゲームで大丈夫か』という了承を取らずに始める

2、ゲームの途中で敗者側に発生する罰ゲームの存在を開示する

3、ルールなどに関して「それ最初に説明してないとズルじゃない?」という重要事項が後付けで出てくる

といった、言ってしまえば「主催者が言ったもん勝ち」な部分が相当多いのだ。主人公と一心同体であるはずの「もう一人の遊戯」も、この手の理不尽な事後報告をバンバン使ってくる。

まぁ、闇のゲームで裁かれる悪者はたいてい「情状酌量の余地なし」の悪行を行っているのでさほど不公平感はないのだが、たまに味方側の行動でも「あんまりでは!?」と思える部分があるのが面白い。

遊戯王の魅力その3「ライバルがずっと嫌な奴のまま」

少年漫画に無くてはならない存在、「主人公の永遠のライバル」として、海馬 瀬戸(かいば せと)というキャラクターがいる。高校生にして作中のエンタメ産業を牛耳る「海馬コーポレーション」という企業の代表である。

海馬社長は、遊戯王ヴィランズの御多分に漏れず初登場時は極悪非道な犯罪者であり、「もう一人の遊戯」にカードゲームでコテンパンにされて一度精神を崩壊させられる。(ゲームに負けた人が精神を崩壊させられるのは、この作品の中で最もポピュラーな罰の一つである)

これが海馬社長だ!(画像はAmazonより)

多くのジャンプ作品でライバルの扱いは「物語の序盤では悪役として登場して、主人公に負けたことをきっかけに改心し、心強い仲間になっていく」という流れが多い。

海馬社長もきっとそうなんだろうなと思ったら、全然違った。海馬社長は最初から最後までずっと嫌な奴なのである。

作中で主人公の行動をサポートしたりするシーンは出てくるものの、基本的には主人公をはじめあらゆる人物に対して敵意むき出し。主人公のスタンスとはずーっと反発しあったまま役目を完遂する。

初登場から物語の終盤まで、彼の人格、主義主張や目的は一貫してぶれない。こんなに変わらないライバルも珍しいなと思った。なぜ海馬社長がネットやTwitterで熱烈に愛されているのかよくわかった。

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