『けいおん!』自作フィギュアを2chにアップしてたド素人が公式原型師に抜擢…伝説の男と10年前を振り返った

2ちゃんねらーの間で激震が走った当時の真相
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時は2011年――。

日本でほとんどの人がガラケーを使用していた頃、日本のインターネット界では匿名掲示板「2ちゃんねる(現5ちゃんねる。以下、2ちゃん)」が活況でした。

2011年、2ちゃんねるに新星が現れる

そんな2ちゃんに、ある1人の男が「けいおん!平沢唯ちゃんのフィギュア作るおwwwwww」というスレ(掲示板のページ)を立てます。

粘土を使い、フィギュアの製作過程をリアルタイムにアップし続け、ようやく完成した作品がこちら。

これはこれでかわいいけど……(画像提供:figureneetさん)

どうでしょう…………?

お世辞にも上手とは言えないクオリティーに加え、「そもそもこれをフィギュアと呼んでいいの???」と誰もが思ってしまう平べったい造形。

当時掲示板を見ていた2ちゃんねらー(2ちゃんのユーザー)たちは……

40:以下、VIPPER速報がお送りします:2011/07/06(水) 22:00:00.67 ID:gvIOmQLZ0
>>31
全く造形が出来てないな
平面的に見るな、立体的に見ろ

45:以下、VIPPER速報がお送りします:2011/07/06(水) 22:01:59.49 ID:g0Qmg3RT0
>>31
うまい棒とこれどっちが欲しいかって聞かれたらうまい棒だな

出典:ニュー速VIP「けいおん!平沢唯ちゃんのフィギュア作るおwwwwww」

めちゃくちゃ辛辣過ぎるコメントを連発。

しかし、この「平沢唯ちゃんのフィギュア」を作った男、figureneet(フィギュアニート)さんはめげませんでした。

まったくの素人であった彼ですが、その後も独学で『けいおん!』キャラのフィギュア製作を継続。

2011年製作 8作目『唯ちゃん』 (画像提供:figureneetさん)

「○○ちゃんのフィギュア作るおwwwwww」というスレタイ(掲示板のタイトル)で2ちゃんにフィギュア製作過程をアップし続け、2ちゃんねらーたちの容赦ないコメントを参考にしつつ、技術を磨いていきました。

2014年、衝撃的すぎる展開が……!!

そして、あの初作品の投稿から約3年後の2014年11月、ネットが沸き立つ奇跡の一報がfigureneet(@figureneet)さんから発せられます。

うん?……嘘でしょ!!?

なんと、ド素人ながら『けいおん!』キャラのフィギュアを作り続けていたfigureneetさんが、『けいおん!』公式フィギュアの原型をデザインする原型師として大抜擢されたのです!!!

まったくの素人だった彼が、愛してやまないアニメ作品のプロ原型師としてデビューするという奇跡の展開に、ネット上は騒然。

同時に掲示板では……

2 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/11/22(土) 00:44:58.46 ID:NidYYs880.net
あいつか…

20 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/11/22(土) 00:54:32.09 ID:KZVK926q0.net
すげえなおいwwwwwwww

28 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/11/22(土) 00:59:22.90 ID:ym0WV29ua.net
こんな奴いたな
上手くなりすぎだろ…

38 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/11/22(土) 01:07:24.29 ID:gYAPSaSCr.net
足が長すぎとかレスしてごめんなさい

50 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/11/22(土) 01:25:47.03 ID:1bYzcISYa.net
マジであのド下手なあいつがここまで上手くなったのかよ
あいつマジで努力してたんだな

52 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/11/22(土) 01:28:54.00 ID:xWTP47ff0.net
ワロタwwww凄いな、感動したわ

出典:ニュー速VIP「フィギュア作るおwwwの奴が奇跡のプロデビューしてるwwwwwwwww」

たった3年で、あり得ないほど上達しているfigureneetさんのフィギュア製作スキルに、みな度肝を抜かれます。

「うまい棒の方が欲しい」と酷評された頃から想像がつかないほどの変貌っぷりに、「上手くなりすぎだろ…」と、なんかちょっとすごすぎて引いちゃってる人や、「足が長すぎとかレスしてごめんなさい」と謝罪する人まで出現。

左が筆者シュゴウ 右がfigureneetさん

当時2ちゃんを頻繁に見ていた私、シュゴウもあまりの上達ぶりに度肝を抜かれた1人でした。

ということで、今回は現役のプロ原型師として活躍中のfigureneetさんにリモート取材を実施。

「『けいおん!』とVIPの名無したちには感謝してるんです――」

笑顔でそう語るfigureneetさんに、たった3年でフィギュア製作スキルを急上昇させた秘訣や、プロ原型師デビューするまでの経緯を伺いました。

「VIPの名無したちには感謝してます」スキルを上達させる一番の方法は2ちゃんにあった!!

本日はよろしくお願いします! figureneetさんの活動は当時から拝見していたでのすが、かなりの頻度でフィギュアを作っていましたよね?

なぜ自作フィギュアの製作過程を2ちゃんにアップしようと思ったのでしょうか?

超ハイペースで自作フィギュアを作り続けていた当時のfigureneetさん

当時、とにかく『けいおん!』にハマっていまして……。それでたまたま家に粘土があったので、軽い気持ちでよく見ていたニュー速VIP(※)にスレ立て(※)してフィギュアを作りながらその過程をアップしていったんです。

そしてら結構反響があったので、その後も作り続けたという感じですね。

ニュー速VIP……当時2ちゃんで人気があった雑談系の掲示板カテゴリ

スレ立て…………掲示板のページ(スレッド)を作ること

自分も高校生の時に『けいおん!』にハマった人間なのですが、figureneetさんはこの時ご年齢は……?

当時は大学生だったので、だいたい20歳前後だと思います。学校に通いながら自宅で余暇時間にフィギュア製作をしていました。

ちなみに、フィギュア作りはずっと独学だったのでしょうか?

1作目からずっと独学でしたね。最初の方なんかはフィギュア製作というより粘土遊びの延長くらいの意識でやっていました。

粘土で形を作って箸と爪楊枝で溝を掘るみたいな感じで、本当に何も知りませんでしたね。

それにしても……

2011年の処女作『マグネット唯ちゃん』(画像提供:figureneetさん)

2014年、プロ原型師デビューした『中野梓〜5thAnniversary〜』

独学3年間でこれは上達しすぎでは???

処女作の『マグネット唯ちゃん』とプロ原型師デビュー作の『中野梓〜5thAnniversary〜』を見比べると、「精神と時の部屋」とか使って修行しないと実現不可能なレベルの急成長っぷりな気がするんですけど……。なにか秘訣があったんでしょうか?

プロ原型師デビューした当時はまだ右も左もわからない状態でしたが、幸運なことにメーカーの方(後述)がしっかりとプロデュースしてくださり、商品レベルまで仕上げていただきました。

あとは、自分の場合は何とかそこまでたどり着けたのは、2ちゃんの皆さんのおかげなんです。

2ちゃんねらーのおかげ……?

2ちゃんねらーってみんな匿名じゃないですか。だから、可愛くなければ可愛くないって率直な意見を言ってくれるんです。

学校の先生だったらここまで面と向かってズバッとは言わないでしょうけど、2ちゃんの人たちは遠慮せずにダメ出ししてくれますから。

なるほど。しかも、学校の先生と違って2ちゃんねらーは何百人といるわけで……。

あとはもう、トライアンドエラーを繰り返す、これが全てですね。そうすると、だんだん「こういうことか!」ってわかってくるようになるんです。

何十人っていう2ちゃんねらーからの率直な意見がリアルタイムでどんどん飛んできて、 それを全部スポンジのように吸収して作品に反映していく……。

そうして2ちゃんをフィギュア製作修行の「精神と時の部屋」みたいに利用していたのか……。

45:以下、VIPPER速報がお送りします:2011/07/06(水) 22:01:59.49 ID:g0Qmg3RT0
>>31
うまい棒とこれどっちが欲しいかって聞かれたらうまい棒だな

出典:ニュー速VIP「けいおん!平沢唯ちゃんのフィギュア作るおwwwwww」

でも、こういった辛辣なコメントをされたりもする訳ですよね。やっぱり、そういう時は悔しい思いをされたんでしょうか?

私は反応をもらえること自体が楽しかったので、悔しいとかは全然なかったですね。それにちゃんとアドバイスをくれる人も多くて。

2作目『唯ちゃん』(画像提供:figureneetさん)

2作目に作った『唯ちゃん』の場合、最初に出来上がった時はもっとひどい仕上がりだったんですけど、的確なアドバイスをくれる方がたくさんいたので修正する度にどんどん良くなっていって。完成した時はわりと達成感がありましたね。

2作目の時点でだいぶ上達している!! これが2ちゃんフィードバックの力なんですね。

figureneetさんはフィギュア製作を開始した2011年からプロデビューする2014年のまでの3年間に、30作品という驚異のペースでフィギュアを製作されていますが、これも反応がもらえることがモチベーションになっていたんでしょうか?

figureneetさん 過去の作品集

それは大いにありますね。フィギュア作りを2ちゃんにアップしてなかったら絶対続いてなかったと思います。

ちなみに、「うまい棒とこれどっちが欲しいかって聞かれたらうまい棒だな」というコメントは、覚えていましたか……?

これは覚えていますね。かなり印象的なコメントだったので。

うまい棒レス、やっぱり印象に残ってるアンチコメランキング上位勢だった。

まさかの『けいおん!』公式フィギュア原型師に抜擢! ある偶然の出会いが奇跡を生む

初めは純粋に趣味としてフィギュアを作っていたと思うんですけど、途中からは原型師を目指して製作に取り組んでいたのでしょうか?

そうですね。最初は原型師なんて意識してなかったんですけど、実は大学を途中で退学しちゃいまして。

もうサラリーマンになるのも難しそうだし就職もしたくなかったので、それからは原型師になれたらいいな……と思いながらバイトしてフィギュア作っていましたね。

バイブルと語る教本(画像提供:figureneetさん)

なので、それまでは我流でフィギュアを作っていたのですが、ちゃんと教本を買って、道具も少しづつそろえて、ワンダーフェスティバル(自作フィギュアの販売イベント)にも参加するようになりました。

教本を買ったあと、粘土ではなくレジンで作成した13作目『いちごちゃん』(画像提供:figureneetさん)

教本購入後の作品はさらに作品のクオリティーがアップしていますね! ちなみに、家族にはフィギュア製作のことは伝えていたんでしょうか?

実家暮らしだったのでオカンには言っていましたね。「お前は何をしているんだ」みたいな感じだったので……

11作目、TVドラマ『妖怪人間ベム』の亀梨君(画像提供:figureneetさん)

当時オカンが好きだった亀梨君のフィギュアをプレゼントしておきました。

進路希望のプレゼン方法が亀梨君……!?

記念すべきプロ原型師デビュー作品

そして、フィギュア作りを初めて約3年後の2014年11月には、まさかの『けいおん!』公式フィギュアで原型師に抜擢されるわけですよね。これはどういった経緯で実現したんでしょうか?

自分がまだイベントに参加していなかった頃に、ワンダーフェスティバルに誘ってくださった横嶋(@gouhondou)さんという原型師の方がいらっしゃるんですけど、あるイベントで自分が横嶋さんの出展ブースに挨拶に行ったらたまたまそこにフィギュアのプロデュースをしている株式会社ストロンガーの小田ツヨシ(@odatsuyoshi)さんがいらっしゃったんです。

24作目、ワンフェス初参加時の出展作品『リンちゃん』(画像提供:figureneetさん)
 

その際に、横島さんが私を小田ツヨシさんに紹介してくださったんですけど、小田ツヨシさんが偶然にも『けいおん!』5周年フィギュアの企画を抱えていたようで……。本当に運良く私が原型を担当することができました。

横嶋さんのブースにfigureneetさん・小田ツヨシさんがたまたま居合わせたから実現したってことですか!?

もしも横嶋さんのブースに挨拶に行く時間が数分ずれてたら2人は出会っていなかったわけで……。

本当に、ミラクル超ラッキーだったと思います。小田ツヨシさんから見れば、アマチュアだった自分に原型を任せるなんて不安だったと思うので、とにかく感謝しかないですね。

原型を担当した『けいおん!』5周年記念フィギュア

正式にオファーが決まったときはどんな心境でしたか?

それはもう、ヨッシャー!って感じです。もちろんプレッシャーもあったんですけど、2ちゃんでハートを鍛えられていたので、当時はわりと楽しんでお仕事ができましたね。

2ちゃんねらーをメンタルトレーニングに有効活用して強くなってる……!

フィギュア原型師ってどんなお仕事? 大変なことは?

今は専業でフィギュア原型師をされているんですよね?

はい、3年前に埼玉県から長崎県の古民家に引っ越しまして、そこを住居兼作業場にして原型師として働いています。

住居&作業場として利用している古民家(画像提供:figureneetさん)

ちなみに、フィギュアの原型師って具体的にはどんなお仕事なんですか?

アナログ造形によるフィギュア原型製作(画像提供:figureneetさん)

フィギュアの元となる原型を製作するのがフィギュア原型師なんですけど、パテや粘土で原型を作るアナログ造形と、

デジタル造形によるフィギュア原型製作(画像提供:figureneetさん)

3Dソフトで原型を作るデジタル造形があります。

じゃあ、figureneetさんはアナログ造形専門ってことになるんでしょうか?

いや、ここ数年はアナログ原型でのお仕事はしていないですね……。

……えっ? 2ちゃんでせっかくアナログ造形スキルを鍛えたのに……?

左から塗装、デジタル作業、アナログ作業のスペース(画像提供:figureneetさん)

修正がしやすいなどの理由もあって、お仕事はデジタル原型で指定されることが多いですね。

自分の場合はそもそも手先が器用ではないので、「デジタルの方が向いてるかも…!」と思い数年前からデジタル原型を練習し始めたんです。

悪戦苦闘しながらも、最近になってやっと思い通りに作れるようになってきました。

フィギュア原型師、職人みたいな職業かと思ってたら結構デジタル化してる業界だった……!

他に、プロの原型師になって大変なことってありますか?

毎回何かしらの苦労はしてますね。趣味で作るのと違って、商業作品で妥協は許されないので。

あとこれは自分特有の苦労なんですけど……

特有の苦労……?

自分が作ると、どうしても『けいおん!』っぽくなっちゃって。

好きすぎるが故の弊害!!!

気づいたら、なんか唯ちゃんになってる。

確かに、figureneetさんのオリジナル作品『しぐれ りんごちゃん』を見てみると……

22作目『しぐれ りんごちゃん』(画像提供:figureneetさん)

けっこう『けいおん!』かもしれない。

他作品の場合は途中で修正したりします。

一回『けいおん!』を経由しちゃうんですね。

そうなんですけど、実は最近また『けいおん!』のフィギュアのお仕事をいただいたんです!

2023年1月にまたまた平沢唯フィギュアを製作!(画像提供:figureneetさん)

まさかまた『けいおん!』のお仕事に携われるとは思っていなかったので、お話をいただいた時はめちゃめちゃ嬉しかったですね……。

10年以上前に放送された『けいおん!』のフィギュア原型製作を再び担当できることになるなんて、なかなか思わないですよね。

それにしても……

左の幼稚園児ver.も味わい深いけど、本当に進化がすごい(画像提供:figureneetさん)

澪ちゃんの変化っぷり、すごすぎ

2ちゃんに支えられたインターネット・サクセスストーリー

「最後に何か言っておきたいことはありますか?」

取材の終盤、figureneetさんにそう尋ねると、

「2ちゃんの皆さんへの感謝を伝えたいですね。」

そう答えられていました。

 

 

うわ~~。いいインターネットすぎる~~~。

 

フィギュアテーマ選びが通すぎる(画像提供:figureneetさん)

そして、本来モブキャラであり本編にも数回しか登場しない「若王子いちご(の幼稚園児バージョン)」をフィギュア化するチョイスに、figureneetさんの深い『けいおん!』愛を感じました。

以上、シュゴウがお送りしました。

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書いた人
シュゴウ


webライターをしながら築85年のボロい古民家に暮らしています。ご連絡はDM・メールまで(shugou17@gmail.com)
今までに書いた記事⇒https://note.com/shugou17/n/ncbec194ee670
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