#ダークエルフ王国見聞録　その１３

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

翌朝、セラに体を揺すられて目を覚ますと、彼女はすっかり身支度を整え、祭りの競技会を見物に行こうと言う。彼女が出場する流鏑馬の予選が午後からであるとのことで、王都やその周辺の草地などで行われる他の競技の予選をまずは見に行くこととなった。 #ダークエルフ王国見聞録

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いずれの競技も、彼女らが信仰する混沌と豊饒の黒女神を祀った上で行われる神事であり、予選を勝ち抜いた者達は黒の女神の血族である女王の叡覧の下、城内で試合を行うそうである。私とセラは、熊鷹氏族の宿営地に近くで行われる“クプカリ”という競技を見に行った。 #ダークエルフ王国見聞録

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この競技は、二つの氏族で勝敗を争うものであり、それぞれ四騎で一組を作り、三町程の幅と二十間程の奥行きがある土の競技場の両横に競技者が氏族ごとに並ぶ。それぞれの組の後方にはその氏族の軍旗が掲げられ、真ん中が窪んだ土盛りがされ、中には枯草が敷き詰められている #ダークエルフ王国見聞録

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馬上のダークエルフの女性達は、膝当てを巻いた皮のズボンと袖口を手甲の紐で絞ったフェルトの長袖を着用し、頭部には氏族名に冠する鳥の羽根を挿した毛皮と布を厚く巻き、相手の組と自分の組が識別できるように、異なる色の錦をそれぞれ揃って羽織っている。 #ダークエルフ王国見聞録

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競技場のすぐ横にある祭壇に供されていた山羊が、司祭とその従僕の手によって競技場の中央に運ばれ、置かれる。この山羊は神前に供える前に血と内臓を抜いた後、腹を縫い合わせたものである。競技者は祭壇に向かって馬上から礼をした後、相手の組みを向かい合う #ダークエルフ王国見聞録

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角笛が吹かれると、両横から中央の山羊をめがけて一斉に馬が駆出し、見物客達は大きな歓声を上げる。赤の錦を纏った“白隼”の組の先頭を駆ける騎手が、鞭を咥えながら身を乗り出し、山羊の前脚を掴んで馬上に引きずり上げる。すると、山羊を持ったまま自分の陣へ馬を向ける #ダークエルフ王国見聞録

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青の錦を纏った“大鵟”の組の騎手達は、この山羊を奪い取ろうとしたり、その進路を妨害しようとしたりと、組み付いたり馬をぶつける様に寄せたりする一方、山羊を抱えた騎手の味方達は周囲を囲んでそれらの妨害を妨げようとする。激しい攻防の中、落馬する競技者もいた #ダークエルフ王国見聞録

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他の競技者を故意に鞭で打つことや馬から突き落とすことは禁じられているが、相手の馬に鞭を入れることや騎手に組み付くことは認められている。双方八騎が揉みくちゃになり、土煙と馬の嘶き、そして険しい顔つきから汗を散らす競技者たちの荒々しい声が交じり合う #ダークエルフ王国見聞録

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この状態から、味方が敵の騎手達を上手く押し分けた隙間を縫って、山羊を持った“白隼”の騎手が自陣へと向かって力強く駆け出し、追い縋る相手を交して、山羊を自陣にある土盛りの中へと放り込む。力強く腕を上げるこの騎手にこの組を応援する観客たちは大きな喝采を送る #ダークエルフ王国見聞録

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自陣へ山羊を持ち帰ることを三回成し遂げた組か、水時計で計られる一定の時間内で成功した回数が多い組が勝者となる。“沃野を見渡す大鵟”と“翼竜を蹴落とす白隼”は共にこの競技に強い氏族であり、白熱した試合は制限時間を終え、二回成功した“白隼”が勝者となった #ダークエルフ王国見聞録

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競技を終えたダークエルフの騎手達は、じっとりと汗に濡れた褐色の肌に髪が張りつき、荒い息をしている。試合後に再び祭壇に礼をした後、勝者と敗者が互いを讃え合っている。馬達の疲労も非常に大きく見え、試合のためには多くの良馬を用意する必要があるそうだ #ダークエルフ王国見聞録

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次の試合に向けての準備が始められた会場を後にして、隣の草地へと向かう。ここでは弓術とレスリングの試合が行われている。弓術の試合は、一町程先に立てられた的に向かって五本の矢を射て得点を競うもので、人型の的の眉間や胸を射当てると特に高得点である #ダークエルフ王国見聞録

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レスリングの試合は変わったもので、ぴったりとした皮のズボンを履き、胸を隠す布を巻いた以外は何も身に付けない競技者達が、それぞれ一定の距離を一対一に向き合っている。彼女らは試合の直前に、桶に入った香油を頭からかぶり、その褐色の肌を滑らせて相手と組み合う #ダークエルフ王国見聞録

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この競技では、相手の背を地面に完全につけて三秒保つか、相手の関節をきめて降参させれば勝ちとなる。制限時間内に完全な勝利が付かなければ、技の得点の多寡で優劣を決する。長い手足を用いて肩車や諸手刈り、外掛けなどに似た様々な技で相手の体を倒そうとする #ダークエルフ王国見聞録

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小柄な者は相手の腕を掻い潜って相手の股の間に差し込んだ腕で相手を持ち上げようとするし、長身の者は相手の脇から腕を差し入れ、回転しながら脚を払って巻き込み投げを打とうするなど、肌が油で滑る故に普通のレスリングと変わった技も多く、また攻防も複雑である #ダークエルフ王国見聞録

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何より組み合う者の体温で香油の匂いが周囲に立ち込め、薄着の端正な肢体が妖しく濡れ光る様子は何とも官能的である。勝ち名乗りを受けた者は、試合場の脇へ退いて布で体を拭き、周囲の目を気にすることなく、服を脱いでザバリと大盥に張られたぬるま湯で全身を洗う。 #ダークエルフ王国見聞録

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この光景にすっかり見入ってしまっていたようで、横にいるセラに耳を摘ままれる 「全く、この競技会は神事でもあるのだぞ。そのような淫らで不躾な目で見るものではない。ふむ、しかし、香油を塗った肌が好きなのか、お前は。いかがわしい気もするが、まぁ、覚えておこう」 #ダークエルフ王国見聞録

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そろそろ昼食を摂ってから、セラの出場する流鏑馬の予選会場に行こうということになり、会場近くに並ぶ屋台の内、串焼きを売る店でいくつかを買い求め、初夏の風が吹き抜ける草原に座って食す。セラは前回の大会では、予選を勝ち抜き、王城での試合に出場したと話す #ダークエルフ王国見聞録

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つづく～

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「此度も必ず予選を勝ち抜き、陛下の御前で私の弓箭の腕を存分に披露するつもりだ」 そう言って誇らしげな笑みを浮かべるセラは串焼きを食べ終え、一旦支度のため宿営地に戻ると言う。流鏑馬の競技は特に人気であるとのことで、私は先に会場に行くことを勧められた #ダークエルフ王国見聞録

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別れの口づけをしようとすると、それを止めてセラは言う。 「接吻は勝利の楽しみに取っておくぞ。それに、今は肉の脂で口が汚れているからな」 軽く抱擁を交わして後、彼女と別れて王都の南側の草原に設けられた流鏑馬の会場へ向かう #ダークエルフ王国見聞録

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“熊鷹”氏族の者達が陣取る一角に座って競技場を見渡すと、草地の中に灰色の砂が三町程の長さで敷かれて馬走となり、その両脇には浅い堀が作られている。左右と奥に幕を立てた計五個の的は、馬走から二十間程の距離に置かれ、徐々に的同士の間隔が狭まる様に置かれている #ダークエルフ王国見聞録

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的は一尺程の径である円形の木板であり、中心部が赤く、同心円状に黒く線が引かれている。また、観客席から観て馬走の手前側、つまり的が並べられた側とは反対側には、黒の錦で飾られた祭壇が設けられ、花々や食物に加えて数多の矢が神前に供えられている。 #ダークエルフ王国見聞録

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競技場の観客席で、他の氏族に属する者達のいでたちを観察していると、ふいに声を掛けられる。 「あらあら、学士殿、お久しぶりじゃありませんか。」 声の方を見遣れば、以前のゴブリン討伐で会った東の里の双剣使い・ヴゥルペスであった #ダークエルフ王国見聞録

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彼女は閲兵に与る氏族軍の一団には参加しておらず、祭りの見学と剣舞の競技に参加するため、自費で王都に長逗留しているそうである。以前に聞いたところによれば、彼女の家は里では珍しい商家であり、材木と毛皮を大いに商って裕福であるらしいので、それが可能なのであろう #ダークエルフ王国見聞録