難解映画『CURE』を解説してみた(ネタバレ有り)
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『CURE』 1997年公開 監督・脚本 黒沢清 出演 役所広司 萩原聖人 pic.twitter.com/WU1aDH8TvO
2021-03-11 23:35:46構成
クレジット部分を除いた実質的な本編は約109分 第一幕(0分~26分):精神科で「青髭」に関する本を読む文江 ~ 自宅で外国語を勉強する文江 第二幕前半(26分~54分):屋根の上に座り込む間宮 ~ 潮見町病院で高部と間宮が出会う
2021-03-11 23:37:48第二幕後半(54分~87分):間宮を取り調べる高部 ~ 文江を入院させる高部 第三幕(87分~109分):クリーニング店で服を紛失する高部 ~ レストランで食事を終える高部 ミッドポイント:取調室で対峙する高部と間宮(56分ごろ)
2021-03-11 23:40:17各幕の要点 第一幕:メインキャラ(高部夫妻、間宮、佐久間)の紹介、小学校教師花岡徹による妻とも子の殺害事件 第二幕前半:大井田巡査、宮島明子医師の事件 第二幕後半:間宮への追及、高部の精神的変調 第三幕:佐久間の自殺、間宮の脱走と高部による殺害、文江の死
2021-03-11 23:41:51前半はスタンダードな刑事ものにはよく見られる形式であり、警察と犯人の視点を切り替えながら進行する 後半は高部が変調し、幻覚や妻への憎悪など、主人公にあるまじき暴走が表れてくる 物語上での間宮の真の目的は「高部を『邪教』に引き込むこと」であり、結末では高部の変貌ぶりが提示されている
2021-03-11 23:48:43『CURE』は、「追う者」が「追われる者」に誘惑され、変化する物語だと言える 同種の構造をした作品には、押井守監督『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』やクリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』がある この種の物語の古典的な源流は、ゲーテの『ファウスト』だろうか pic.twitter.com/Dbj30ZjHgk
2021-03-11 23:51:38「入れ替わり」と「ペルソナ」
警視庁捜査一課の刑事である主人公・高部が、「邪教」の伝道師という正反対の立場へと「入れ替わっていく」過程が、『CURE』におけるストーリーの要点だ したがって、作中には「入れ替わり」という要素が多種多様な形で表現されている 以下に一例を挙げる
2021-03-11 23:54:17・事件の「加害者」たちは、間宮による催眠暗示の「被害者」でもある ・間宮の話法:質問者に質問で返し、話を聞いているのが間宮へと変化する ・加害者たちの職業:教師、警官、医師 他人を守り治療するべき職種の人間が殺人を犯す
2021-03-11 23:56:09・オープニングでの文江の言葉:『青髭』の物語の結末について「娘(妻)が青髭(夫)を殺してしまう」と述べるが、本作の結末では「高部(夫)が文江(妻)を殺す(殺させる)」
2021-03-11 23:58:04細かい構図においても、「入れ替わり」は随所に表現されている ・大井田巡査の取り調べ 当初は高部の座っていた椅子に大井田が座る pic.twitter.com/AUMJmplN1l
2021-03-11 23:59:52・宮島医師が間宮を診察する場面 間宮による催眠暗示後、カメラ位置が突然逆アングルに変化している 暗示前 右に流し台、左に机 暗示後 右に机、左に流し台 pic.twitter.com/jKYy4YSaPs
2021-03-12 00:02:16・精神病院内での高部と間宮の会話場面 会話の進行につれて、二人の位置が次第に入れ替わっていく pic.twitter.com/elTnlgZooF
2021-03-12 00:03:47高部が「邪教」に引き込まれるのは、間宮の催眠暗示による連続殺人事件に関わったことが契機となっている 物語上で詳細が描かれる三つの事件(花岡徹教諭、大井田巡査、宮島明子医師)を通じて、高部と間宮は互いの距離を縮めていく
2021-03-12 00:08:35まず、妻とも子を殺害した花岡徹に対して高部は尋常ならざる興味を示し、その追及は佐久間が制止するほどの過剰さをもって行われる (当初は高部が佐久間を制止する役回りだった。ここにも「入れ替わり」がある) 作中での最初の事件、桑野一郎による売春婦殺害事件の際には見られなかった執着だ
2021-03-12 00:12:03また、大井田巡査への取り調べにおいても、高部は催眠暗示の術者に関する追及を過剰に行い、佐久間から制止されている 真犯人に対する高部の異常なまでの執着は、花岡徹による「妻殺し」から始まったとみるべきだろう
2021-03-12 00:14:50物語の前半から、高部は無意識的に一連の切り裂き事件を「個人的な問題」として捉え始めている 「妻殺し」は、高部が潜在的に抱えていた「精神疾患を患う妻・文江への殺意」を大いに刺激したからだ
2021-03-12 00:16:13文江の前では温厚で愛情深そうな表情を浮かべる高部だが、それは彼が身につけている「ペルソナ(社会的な仮面)」の一つだ 本作中でペルソナは、しばしば衣服という形で象徴的に描かれている
2021-03-12 00:19:55序盤に訪れたクリーニング店で、高部の隣りに立つサラリーマン風の先客がブツブツと憤懣をこぼしている 店員から洗濯済みの衣服を渡されると男はすぐに表情を消し、先程までの憤懣が嘘のような平静さで店を出ていく pic.twitter.com/oEQtTyvLB3
2021-03-12 00:25:40クリーニング店は衣服を浄める施設、つまり本作中では「ペルソナを維持するための場所」として見立てられている 自宅においてはもちろん「洗濯機」が、ペルソナを外し浄めるための装置だ
2021-03-12 00:27:35自宅に戻った高部はまず、クローゼット用らしき小部屋でコートを脱ぐ 峻厳な「刑事」としてのペルソナを外し、精神を病んだ妻・文江への憎悪を押し隠すためのもう一つのペルソナ──「良き夫」という仮面を身につける儀式だ
2021-03-12 00:31:17文江の病が回復しきらない根本的な理由も、実はここにある 彼女が何かに取り憑かれたように空の洗濯機を回しているのは、家庭においてさえ頑なに高部が「良き夫」の仮面を外そうとしないからだ 「本当の自分」を見せてくれない夫に対して文江は疑念を抱き、強迫観念に囚われている
2021-03-12 00:35:28自宅で空の洗濯機が回るのは高部が帰宅する時間帯からで、昼間一人で家にいるときに文江がスイッチを入れる気配はない 回り続ける空の洗濯機は、文江から夫への「ペルソナを外せ」という無言の要求であり、その重圧によって、高部の頭の中では激しい駆動音が昼夜を問わず轟音で鳴り続けている
2021-03-12 00:38:44