元新潮社編集者・宮本和英さんが、出版業界の裏話を語る語る。

元新潮社編集の宮本和英さんの体験談 ①雑誌「nicola」大ヒット秘話 ②アントニオ猪木自伝出版裏話
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宮本和英 @kazmiyamoto

担当編集者が情熱を持って本を出す、それを出版営業→取次→書店→アルバイト書店員と受け継いで書店の棚に並ぶ。でもここの流れにおいて、その本を必死で売ろうという情熱が形になって現れない! 沢山の本の流通をこなすだけで手一杯になってしまう。そしてその本はどこかに埋没! そして返品。

2011-01-06 04:21:04
宮本和英 @kazmiyamoto

著者から出版社に対して出る不満は、宣伝してくれない! 営業が動いてくれない!店頭に本がない! これらの不満は解消できません。それは仕組みがダメになっているから。個々の出版社のやる気の問題だけではないのです。この本を売りたい、中身が素晴らしいということを伝えられないのです。

2011-01-06 04:27:18
宮本和英 @kazmiyamoto

出版流通の仕組みが個々の本の良さを伝えられないから、著者自身がtwitterなどで自らの熱意で直接世間に伝えることが意味を持ちます。その方が信用できる。あるいは一書店員が必死で薦めた本の方が、メディアの書評より信用されるのです。

2011-01-06 04:32:40
宮本和英 @kazmiyamoto

今の出版業界は、本作りの熱意が見えなくなってしまう仕組みになってしまったのです。そうしたことを出版社の中にいて切実に感じてきました。

2011-01-06 04:43:28
宮本和英 @kazmiyamoto

そして今、出版という行為自体が出版社の独占物ではなくなりました。多少の資金があれば誰でも本作りはできるし刊行もできるのです。編集に多少の専門性はありますが、どの印刷会社でも印刷製本を引き受けますし、販売もネットで出来ます。本作りの情熱をストレートに伝えることもネットで可能です。

2011-01-06 04:43:34
宮本和英 @kazmiyamoto

出版界にはもともと「お客様」という言葉がありません。とても珍しい業界です。出版会では「読者」と言います。それは必ずしも本を買う人を意味しません。本は普通の商品とは違う文化的な物だから、商品扱いすることに何か抵抗があったのでしょう。でも購入者=お客様という意識がなくなると……

2011-01-06 04:46:44
宮本和英 @kazmiyamoto

どこを向いて本作りをしていくのかいつの間にか分からなくなってしまうのです。お客が誰だか分からないで、商品は作れません。「読者」という言葉は綺麗ですが、大事なことから目をそらすことになってしまったのかもしれません。

2011-01-06 04:50:07
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験1 もう少し僕の実体験から具体的な例をお話します。nicolaを創刊した時、最初はホントに売れませんでした。宣伝予算もなく誰も知らない雑誌なのですから、いきなり売れるはずもありません。号を重ねて徐々に認知されていくしかない。でも売れてないと凄いプレッシャーがかかります。

2011-01-06 04:56:15
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験2 何号か出して、書店の販売データを目を皿のようにしてチェックしました。すると数字は悪いのですが、完売店がちょこちょこあるのです。2、3部配本されてそれが全部売れているといったレベルでしたが、僕にとっては唯一の「いい芽」でした。つまりお客さんが確実にいる!という手応えです!

2011-01-06 05:00:32
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験3 その頃、営業担当と会議をして、こちらが販売策を色々提案してみるものの、彼らの答えはいつも「そんなことをやっても効果はないですよ」「過去にいろいろやってきたけど、結局雑誌の中身が良ければ売れていくんです」。営業担当者からこの言葉を聞いた事のない編集者はいないでしょう。

2011-01-06 05:27:23
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験4 彼らの考えが間違っているわけではありません。彼らの言う通りです。でもその視点からしか見ないようになると、「いい芽」を見逃してしまうのです。売れていないnicolaの「いい芽」は、完売店がチラホラあったことです。細かく見ていかないと気付かないほどのちっちゃな「芽」でした。

2011-01-06 06:00:05
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験5 売れてくれることを最も必死で願っていた創刊編集長の僕だから気付いたことといえます。その時考えたのは、このまま放っておくと……ちょっと疲れたので続きはまた後ほど。、

2011-01-06 06:00:29
宮本和英 @kazmiyamoto

j実体験6 続き…その時考えたのは、このまま放っておくと、実売数が伸びなければ取次が配本部数を減らします。当然配本される書店数が減ります。売れていない書店への配本をカットし、完売店や比較的売れている書店へ配本数を増やして、結局完売店がなくなっていくだろうということです。

2011-01-07 02:47:35
宮本和英 @kazmiyamoto

j実体験7 つまり唯一の、僕だけが気付いている「いい芽」がなくなってしまう!完売店とはいえ配本数をどんどん増やされたら当然売れ残りが出てきます。そして全体に数字が均されていって、全体の実売率がこの程度では配本数をさらに減らさなければならない、という状況に追い込まれます。

2011-01-07 02:53:35
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験8 そして廃刊への道をまっしぐら! そうしないために例えば大々的に宣伝する手がありますが、当時のnicolaではそんな予算を組んでもらえる状況ではありませんでした。必死で考えた僕の販売プランは、実はしごくまっとうなものでした。

2011-01-07 02:58:46
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験9 配本にあたって幾つかのルールを作りました(実行できるかどうかは営業と取次にかかっていますが…)。

2011-01-07 03:04:08
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験10 まず一書店あたりの配本数を最低でも5部以上にする。これは書店の平台に置いてもらうためです。知名度のない雑誌は1~2部の配本では棚に置かれてしまい、お客さんの目に触れることなくそのまま返品されてしまいます。だから5部以下の配本をやめさせる!

2011-01-07 03:08:10
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験11 次に配本される全体の書店数を絶対に減らさないこと、逆に増やして欲しいということ。これは、それまで5部以下の配本店で売れ行きの悪い書店への配本を切ってしまうことを防ぎたかったからです。つまりそれまで5部以下の配本店にm配本数を増やすためのルールです。

2011-01-07 03:12:07
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験12 1~2部しか配本されていなかった書店も、5部以上配本して平台に並べてもらえば売れるようになるかもしれません。その機会を失いたくなかったからです。

2011-01-07 03:23:51
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験13 さてそうすると、全体の配本数を増やさなければならないのでは?と思われるでしょうが、大書店などには必要以上の部数が配本されているので、その余計な分を減らして他に回してもらえばいいのです、そうすれば大書店の実売率も上がってきます。全配本数を増やさずに効率を上げるわけです。

2011-01-07 03:28:24
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験14 さらに、完売店に対して、通常は次回から配本数が増やされていくのですが、そこに2割増しまで、というルールを提案しました。僕はあくまでもまず完売店を増やしていこうと考えていたので、やみくもに完売店への供給を増やされてその書店の実売率を落としたくなかったのです。

2011-01-07 03:32:17
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験15 完売店があるといことが、僕の発見した「いい芽」なのですから、その「芽」を大きく育てていくことで、ブレイクスルーしようと考えていました。仮に全体の実売数があまり増えていなくても、完売店の数を増やそうと狙ったのです。それはきっとイメージを変えます!

2011-01-07 03:36:19
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験16 こうしたルールを決めてもそれを実行してくれる営業担当者がいなければ画に描いた餅です。雑誌営業のベテラン達は素人の僕のこのルール提案に乗り気ではありませんでした。「君がそんなことをしなくても、取次だって効率配本を心がけているんだから」と。

2011-01-07 03:40:16
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験17 僕が提案した配本ルールは、出版社からの指定配本という事でどの出版社でも出来るわけではありません。でもS社は営業がその煩雑な作業をやってくれれば可能だったのです。つまり面倒な事をやりたくなかったのでしょう。確かに彼らの言うように雑誌に力があれば売れるはずなのですから。

2011-01-07 03:45:17
宮本和英 @kazmiyamoto

実体験18 その時僕に幸運が訪れました。週刊誌編集部から若手のU君が雑誌営業に異動してきたのです。編集と営業の人事交流が始まり彼はその第一号。U君は営業プロパーの思想に染まっていなかったので、僕の提案を素直に理にかなっていると賛同してくれ、煩雑な作業を厭わずやってくれたのです。

2011-01-07 03:51:10