「2要素認証」は『CCさくら』で考えるとわかりやすい!「夢の杖」を振る大学准教授に狙いを聞いた
「2要素認証」という言葉をご存知だろうか。例えば、IDとパスワードという本人だけが知る知識(知識認証)と、ICカードやスマートフォンなどの持ち物(所有物認証)、指紋や声紋など本人の身体的特徴(生体認証)といった2つの要素を組み合わせ、本人認証を行う仕組みのことだ。

この仕組みを解説するとき、多くの先生は教科書や図版を使うだろう。ところが日本に(恐らく)ただひとり、魔法少女のスティックとアイテムを使って説明する大学の先生が存在した。
広島市立大学大学院准教授の稲村勝樹(@inage39)さんは「情報セキュリティ応用」の授業で2要素認証を説明するために使った「指示棒」についてTwitterに投稿した。そのツイートがこちらだ。
本日からの情報セキュリティ応用の授業で2要素認証の説明するのに使った指示棒 https://t.co/AlliJSnSBW
— 稲村勝樹 (@inage39) 2022年4月12日

これは、『カードキャプターさくら クリアカード編』(以下「CCさくら」)で主人公が使用している「夢の杖」と「クリアカード」。言うまでもなくれっきとした魔法少女のアイテムだ。
ここであらためて『CCさくら』について説明しておこう。
『CCさくら』は、雑誌『なかよし』で1996年に連載開始された漫画。主人公の丹下桜(当時は小学4年生)が、封印が説かれると災いが起きるという「クロウカード」を集める「カードキャプター」として奮闘するという物語だ。この続々編にあたり、現在も同雑誌で連載されている「クリアカード編」は、中学1年になった主人公が再びクリアカードを手に入れていく…という展開に。TVアニメ化もされており、2022年には、連載開始から25周年を迎え、世代を越えて愛される作品となっている。

しかし、2要素認証の説明になぜ「夢の杖」と「クリアカード」が必要になるのか。解説してもらうべく、稲村さんに取材を申し込んだところ快諾いただいたので、どのような意図なのかをたずねてみた。
@selliene コスチュームではないですが、このパーカーを着て授業しました https://t.co/qm2jcnAx5M
— 稲村勝樹 (@inage39) 2022年4月12日

学生にわかりやすく暗号技術を説明するため
2要素認証の説明に「夢の杖」を使うようになったきっかけを教えて下さい。
サイバー攻撃のニュースが普通にテレビでも聞かれるようになり、暗号やセキュリティの重要性が高まっている一方で、それを支える技術者が不足しているという課題がございます。
その原因の一つに「暗号・セキュリティ技術が分かりにくく興味を持ってもらいにくい」というものがあり、なかなか教育が行き届いていないからではと考えております。
そこで、学生らに面白く興味を持ってもらい、それでいて理解しやすいものを利用して教えられないかといろいろ考えている中の一つとして、2010年代中ごろからこのようなグッズを利用するようになりました。
実は、暗号技術をさまざまなものに置き換えて説明するという試みは各所で行われていることなのだそう。
さすがにアニメグッズを使うようなものではないですが、分かりやすいものに置き換えて暗号技術を説明する試みはいろいろなところでされています。
例えば最近ですと、東邦大学の金岡晃先生の研究室ではフリクションペンを使ったりコーヒー・ミルク・ガムシロップを使ったりして暗号アルゴリズムの原理を説明する手法の研究が行われております(※)。
(※)山下雄大, 金岡晃:「等価的物理モデリングを用いた暗号技術のユーザ理解度評価 」, 情報処理学会第46回セキュリティ心理学とトラスト研究発表会, 2022年3月.
この他にも講義で活用しているものはありますか。
グッズではないですが、すでに学生のみんなでも2要素認証は当たり前に使っているという例として、キャッシュカードを用いたATMでの預金引き出し(カードという「物」と、暗証番号という「記憶」とを用いた2要素認証)の話をする時があります。
『CCさくら』以外にも、呪文(コマンド)と魔法特性(生体)で本人認証が成立している作品はあるのでしょうか。
まず、呪文はあくまで実行用コマンドで、これは発声していることから公開情報になり、認証に用いていないとしています。
『CCさくら』においては、カードというシステムに呪文という命令コマンドを発信した場合、杖という「物」と、魔法特性という「生体」を使った2要素認証で本人を確認し、そこで初めて呪文が有効になるという解釈です。(カードという魔法を実行する「システム部分」と実行に必要となる「物」としての杖が分離しているのがポイントで、主人公といえど杖なしに魔法を発動・制御はできないことからそのような解釈にしております)。
他の昔の魔女っ娘もの作品だと、アイテムに対しさらに別の物で認証するというものがなく、2要素認証が成立していない、となります。最近のアニメはチェックしきれていないので、もしかしたら漏れているかもしれません。
なるほど…確かに『ひみつのアッコちゃん』は呪文とコンパクトで変身するが「マハリクマハリタ」の呪文は他の人にも聞こえる公開情報だ。

『仮面ライダー』や『プリキュア』も、使うのは変身アイテムのみなので、セキュアとは言えないと、稲村さんもツイートでも言及されている。
@KY_yakui 仮面ライダーはちょっと分からないところがあるんですが、以前のシリーズとかだと変身アイテムを手に入れた人なら誰でも変身できたりするから、変身アイテムという物の認証だけでそれを落としたら拾った人が成りすましできるってことはありそうですよね。
— 稲村勝樹 (@inage39) 2022年4月13日
稲村さんが『CCさくら』を認識したのはどこから(雑誌・コミックスか、TVアニメ、映像ソフトなど)でしたか。
1990年代に原作が連載開始した当初からのファンで、その当時から『なかよし』や単行本購入、TVアニメの録画、映画2作品の映画館での鑑賞、テレビシリーズや映画のLDソフト購入はすべてリアルタイムで行っておりました。
初出は25年前だった作品なので、Twitterでは「今の学生さんの世代だと、CCさくらを知らないのでは?」という声もあったが、実際の反応はどうだったのだろうか。
学生さんからの反応は?
『クリアカード編』が現在連載中なので数人は知っていましたが、たいていの人にはわからず、アニメタイトルを言っただけではポカーンとされましたが、実際に杖を見せたり、杖から実際に主人公のボイスを発生したのをマイクで拾って聞かせたりしたときには笑ってもらえました。
作品への思い入れと実益を兼ねた指導を受け、講義を聞いた学生さんたちには2要素認証と夢の杖の記憶が植え付けられたことだろう。
『CCさくら』が気になった人は、公式が単行本第1巻を無料公開しているので、こちらからチェックしてみては。