ついに動画も飛ばす時代が来たか…「今年の新語2022」大賞は「タイパ」!選考発表会レポ

今年の新語、あなたはいくつ知っていましたか?
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「○○くない?」は昔からあった言葉くない?

続いて大賞以外の新語の中で、特にトークが盛り上がった言葉を紹介しよう。

第5位に選ばれた「○○くない?」は、選考委員会の中でも「批判が集中するのでは」と予想していたという。理由は「すでに昔からある使われ方だから」。にもかかわらず今年の新語に選ばれたのはなぜなのか。

どんな言葉に続くようになったか、に注目

飯間:20年くらい前から「可愛くない?」「やばくない?」といった使い方はありました。

小野:相当古いですけど、40年ほど前には「好きくない」もありましたね。

飯間:「○○くない」は(最近)接続の形がすごく変わってきています。たとえば、テストの問題が解けて「わかったくない?」と言うように「わかった」という過去形にもつくようになった。現在形にも接続して「これ今流行ってるくない?」といった使われ方もしています。

最近の「○○くない」の使われ方には、「確認要求」が含まれている点もポイントだという。

小野:確認要求とは、「そうじゃないの?」「そうでしょ」と相手に確認するニュアンスを表します。

飯間:英語でいうと付加疑問文ですね。尋ねているわけではなく「○○だよね?」と念を押している形。似たような確認要求の表現自体は昔からあって、たとえば「○○でしょう?」。○○くない?は「わかったでしょう?」「流行ってるでしょう?」などに近い使われ方になってきています。

小野:「共感したい、してほしい」という欲求が強まっている精神背景があるかもしれません。自分が思ったことを相手も同じように思ってほしい、もしくは同じように思ってくれるか不安がある、みたいな。

飯間:相手も自分と同じように共感してくれると良いのですが、そこがちょっとズレると「きまず」になるんでしょうね。

例文の意味がわからなくて「きまず」

「○○くない」の延長で飛び出した「きまず」についても、興味深いポイントがたくさんある。

例文に「?」となる人もいるかも

飯間:同調圧力といいますか、相手と違うことをして悪目立ちをすることを忌避する傾向が強くなってきているのを感じます。

そんな世の中で「きまず」は相手とちょっと違ったことをしちゃったかな、という気持ちを表す言葉なのではないかと。「ちょっとあなたとずれちゃったことわかってるよ」「ずれちゃったけど勘弁してね」とライトに表明する意味で。

上位互換として「きまZ」もあります。全体的に、深刻さを軽減しているのでしょうね。「きまずい」と言うと深刻すぎるので、「きまず」で緩和する。さらにもう少し軽くしたければ「きまZ」を使うような。

また、今回発表された「きまず」の語釈の中にある

「ライブ会場で会おうね」「きまず」

という例文について、山本編集長から「正直、例文の意味がわからないのですが」というストレートな疑問も飛び出した。

飯間:これは(実際に耳にした)実例なんですよ

しばらく会ってない友達と、ライブ会場で会うシチュエーションで、「ついに会うんだ!」という恥ずかしさ、緊張、照れなどが含まれた文脈での「きまず」です。

文例の背景を聞いても、他の登壇者は首をかしげていた。でもなんとなくニュアンスはわかるような…?

飯間:元々「きまずい」は重たい使われ方をする言葉です。本人のいないところで使う言葉ですよね。

お互い言葉を出しにくくて、沈黙する状況なんかを「きまずい」と表現しますね。(「きまず」は)でもそれをあえて言葉にして相手に言ってしまうのですね。

山本:もとはあまり発言する言葉じゃないわけです。

荻野:状況を描写するための言葉であって。

飯間:きまずさを感じた本人が自分から言ってしまったらおしまいよ、とも思うのですが。

選考委員の皆さんの間でも、まだまだ用例に謎が多い「きまず」。ただ、言葉としての謎の多さもまた今年の新語に選ばれる大事なポイントのようだ。

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