カーリングの石の曲がり方は、100年近くも論争が続いている「世紀の謎」だという話

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村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

立教大学理学部教授。専門は原子核物理学、カナダのTRIUMF研究所での時間反転対称性の破れの探索、立教大学の実験室で余剰次元探索の為の近距離重力実験などを幅広く。ブルーバックス「『余剰次元』と逆二乗則の破れ」の著者です。

村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

大盛り上がりのカーリング。石の曲がり方を見て、あれ?と思いませんか?野球の変化球と同じで、上から見て時計回り回転で、右へ曲がります。前面の摩擦をイメージするのと、逆向きなんです。実は今も未解決の、100年近くも論争が続いている「世紀の謎」なのです。

2022-02-19 07:35:13
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

1924年にカナダの学術誌に初めてカーリングの謎が登場するのを皮切りに、ネイチャー誌で侃侃諤諤の議論が巻き起こります。摩擦現象に関する新発見では、という期待も混じって真っ向から対立する仮説が乱立しました。

2022-02-19 07:35:13
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

仮説は主に3つに分類されます。(仮説1)最初に提案された左右非対称性起源説。回転しながら前に進むので、左右で氷に対する相対速度が異なります。動摩擦係数は氷では速い方が小さい性質がある為、摩擦が左右で異なります。これが起源という説。

2022-02-19 07:35:13
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

(仮説2)前後非対称説。前面の摩擦が効くイメージを排除して、何らかの理由で後ろの摩擦が効くという説。原因は不明ながら、左右非対称説では横向きの反作用を生み出せない事から長年、支持されています。

2022-02-19 07:35:14
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

(仮説3)カーリング場の氷の表面はわざと凸凹にしてあります。平らだとよく滑りません。石の下面も少しザラザラなので、この粒々が引っ掛かってまわる、ピボット仮説。また、その亜流でザラザラが作った溝にはまって曲がるスクラッチ・ガイド説。

2022-02-19 07:35:14
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

カーリング石の振る舞いを見て、まず、不思議だな、と思う事。そしてよく観察し、仮説を立てる事。データに基づいて定量的に仮説を検証する事。そして常に定説を疑う事。1世紀に渡って繰り広げられてきた自由闊達な物理の物語。そしてそれは今も熱く進行形です。

2022-02-19 07:35:14
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

ニュートンが万有引力の法則を発見出来たのは、ティコ・ブラーエの詳細な惑星運行のデータがあったからです。これがなければデータサイエンティストのケプラーも何も出来ません。カーリングでは、まともなデータがないのに議論し続けた1世紀だったと言えそうです。

2022-02-19 07:35:15
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

左右非対称説は、学校で習う、動摩擦係数は一定、という常識を破ります。ですが、この例に限らず実際の動摩擦係数は一定ではありません。また、動摩擦力は速度の逆方向、と習う事も、カーリングの議論を混乱させている原因です。摩擦の取り扱いは所詮、粗視化、平均化の産物です。

2022-02-19 07:35:15
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

物理を習ってから滑り台を滑ると疑問が湧きます。大人の方が圧倒的に速いのです。自由落下の一様性と摩擦の理屈と矛盾します。これも、摩擦に関する教科書の常識を疑うと解決します。安直に、効かないはずの空気抵抗にすがりついてはいけません。

2022-02-19 07:35:16
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

野球の変化球やゴルフの曲がりでは空気の流れが本質ですが、それは速いからです。カーリングや滑り台では空気抵抗は微々たるものです。定性的にはあり得そうな仮説も、定量的に見ればダメダメ、という事はよくあります。

2022-02-19 07:35:16
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

カーリングは、スピンが関係する原子核反応や、がん治療に関係する物質中の放射線の振る舞いに物理的に類似性があります。物理学者垂涎のネタです。3月の日本物理学会でカーリングと物理学のアナロジーに関して講演しますので乞うご期待!

2022-02-19 09:57:12
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

実は本日は修士論文発表会。 「Newton-V を用いた重力の逆二乗則の検証」(余剰次元探索) 「ローレンツ不変性検証のための偏極8Li原子核寿命の周期性解析」(カナダ・TRIUMF研での実験解析) 並行してミューオンを使った新しいマイケルソン・モーリー実験の準備、テスト実験の解析真っ最中です!

2022-02-19 16:24:52
村田次郎 / Jiro Murata @jiromurata

2/10に朝日新聞で紹介されてました: @asahicom 「最もミステリアスなスポーツ」カーリング 石が曲がる原理わからず asahi.com/articles/ASQ23…

2022-02-19 17:33:18
リンク 朝日新聞デジタル 「最もミステリアスなスポーツ」カーリング 石が曲がる原理わからず:朝日新聞デジタル カーリングは「最もミステリアスなスポーツ」と称されることがある。 カーリングの石の素材は花崗岩(かこうがん)で、重さ約20キロ。投じた石に回転を加えることで、野球の変化球のように右や左に曲がっていく… 75
リンク 読売新聞オンライン 滑り具合、瞬時に解読…[超人の科学]北京オリンピック・カーリング – オリンピック 【読売新聞】 カーリングという名称は、氷上のストーンが巻き毛(カール)のように曲がることが由来とも言われる。約500年の歴史を持つが、ストーンがなぜ曲がるのか、現代の科学でもはっきりわかっていない。科学でも予測が難しいストーンの動き 1 user 69

2018年にこのような記事も

GIGAZINE(ギガジン) @gigazine

「カーリングのストーンはなぜ曲がるのか?」という何百年も続いた謎を研究者らが解明(2018) gigazine.net/news/20180219-…

2022-02-19 21:15:01
リンク GIGAZINE 「カーリングのストーンはなぜ曲がるのか?」という何百年も続いた謎を研究者らが解明 「カーリングのストーンはなぜ曲がるのか?」という問題は、実は何百年にわたって科学的に解き明かされていない謎として存在してきました。そんな中、この謎を数学的に解き明かし、物理的に説明した研究者らが登場しています。 98 users 202
リンク Wikipedia カーリング カーリング(英: curling)は、氷上で行われるウィンタースポーツ。冬季オリンピック種目の一つ。 高度な戦略が必要とされ、その理詰めの試合展開から「氷上のチェス」とも呼ばれている。 4人ずつ2チームで行われ、目標とする円をめがけて各チームが交互に8回ずつストーンを氷上に滑らせ、ストーンを円の中心により近づけたチームのみが得点を得る。これを10回繰り返し、総得点で勝敗を競う。 ストーンは、ごく弱い回転をかけることで速度が落ちるに従い自然に曲がって(カールして)いく。また、進んでいくストーンの前の氷面を擦 23 users 203

そうなのか!

FUMIHIKO HIRAI🐝昆虫スローの人 @uta_31

オリンピックは興味無いけどこれは面白い。どういうこと? twitter.com/jiromurata/sta…

2022-02-19 14:10:17
八谷響@「昼想夜夢 」 @erusukuma

@jiromurata 実際にそうなっているのが見えるのに、原因や理由がわからない現象というのもあるんですね。

2022-02-19 14:05:27